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でんさいファクタリングとは?電子債権との違い

目次

でんさいファクタリングとは?「でんさい」と「ファクタリング」の基本

「でんさい(電子記録債権)」とは

「でんさい」とは、「電子記録債権法」に基づき、全国銀行協会が運営する全銀電子債権ネットワーク(通称:でんさいネット)に記録される電子記録債権のことです。
簡単にいえば、「手形」や「売掛金」を紙ではなく電子データとして管理する仕組みです。

主な特徴は次のとおりです。

  • でんさいネットという公的な記録機関に、債権の発生・譲渡・消込が記録される
  • 紙手形のような発行・郵送・保管が不要で、すべて電子的に完結する
  • 分割や譲渡が電子的に行えるため、資金調達にも利用しやすい
  • 銀行口座と連動しており、満期日に自動で決済されるため回収の確実性が高い
  • 債権の内容・帰属が電子的に公示されるため、二重譲渡や債権の帰属を巡る紛争が起こりにくい

でんさいは「手形に代わる決済手段」として企図されており、紙の手形文化を電子化し、企業間決済の効率化・安全性向上を目的として導入された制度です。
支払企業・納入企業ともに、参加金融機関のインターネットバンキングやEBサービスから利用でき、会計システムやAPIとの連携を通じて、請求・回収管理の自動化にも活用されています。

つまり「でんさい」は、企業間取引における「支払約束」を、銀行ネットワーク上で電子的に見える化・管理するためのインフラといえます。

「ファクタリング」とは

ファクタリングとは、売掛債権をファクタリング会社や金融機関に売却し、満期日前に現金化する資金調達の手法です。

  • 取引先に対する売掛金や請求書(将来の入金予定)を
  • ファクタリング会社などに売却(譲渡)し
  • 一定の手数料・割引を差し引いた金額を、すぐに受け取る

という仕組みです。

銀行融資と異なり、「債権の売却」による資金調達のため、

  • 貸借対照表上は「借入金」が増えない
  • 自社ではなく、売掛先(取引先)の信用が重視される

という特徴があります。

さらにファクタリングには「リコース(償還請求権あり)」と「ノンリコース(償還請求権なし)」があり、

  • ノンリコース型は、売掛先が倒産した場合でも、原則として買取代金の返還義務がなく、「信用リスク移転」の意味合いが強い
  • リコース型は、万一の不払い時に利用企業が買い戻し義務を負うため、実質的には短期融資に近い性格を持つ

といった違いがあります。

売掛金を裏付けとする短期運転資金調達として、中小企業の資金繰り改善に広く使われてきた歴史があり、手形割引やビジネスローンと並ぶ代表的な手段となっています。

でんさいファクタリングの意味と位置づけ

「でんさいファクタリング」は、「でんさい」と「ファクタリング」を組み合わせた取引です。

  • 支払企業が支払手段として「でんさい(電子記録債権)」を発行し
  • 納入企業(でんさいを受け取る側)が
  • 満期前にそのでんさいを、銀行やファクタリング会社に譲渡(売却)して資金化する

というスキームを指します。

整理すると、

  • でんさい:決済・債権管理のインフラ
  • ファクタリング:早期資金化・資金調達の仕組み

を一体で活用する「でんさいを裏付けとしたファクタリング商品」と位置付けられます。

従来の手形割引と比べると、

  • 手形の物理的な授受や保管が不要
  • 譲渡の記録がでんさいネット上で完結し、公示性が高い
  • 満期日決済が銀行ネットワークで自動処理される

といった点で、事務効率と安全性が高いと評価されています。

また、複数のでんさいを包括的に対象とする「一括ファクタリング」や、将来発生するでんさいの譲渡予約を含む包括契約など、でんさいを前提とした多様なファイナンス商品も登場しており、サプライチェーン全体の資金循環を支える仕組みとして位置づけられつつあります。

「電子債権ファクタリング」との違い

「電子債権ファクタリング」という表現は、厳密な用語というより、「電子的に記録された債権を対象とするファクタリング」を広く指す場合があります。

  • でんさいファクタリング:
    全国銀行協会の「でんさいネット」に記録された電子記録債権を対象としたファクタリング
  • 電子債権ファクタリング:
    でんさいを含む、より広い電子債権(私設プラットフォームで管理されるデジタル債権など)を使ったファクタリングを指す場合がある

実務上、日本国内で「電子債権」といえば、まず「でんさい」を指すケースが多く、「電子債権ファクタリング」と「でんさいファクタリング」が同じ意味で使われることも少なくありません。
ただし、でんさいはでんさいネットという公的インフラ上の電子債権である点が特徴であり、他の私設プラットフォーム型の電子債権とは区別されます。

私設型の電子債権はサービス事業者ごとに法的構成や決済方法が異なるため、ファクタリングに利用する場合は、それぞれの契約・公示方法(譲渡登記・債務者通知など)の確認が必要です。


でんさいファクタリングの仕組み

関わるプレイヤー(支払企業・納入企業・金融機関・でんさいネット)

でんさいファクタリングには、主に次のプレイヤーが登場します。

  1. 支払企業(債務者)
    商品・サービスの購入代金を「でんさい」で支払う企業です。
  2. 納入企業(債権者)
    でんさいで代金を受け取る側であり、でんさいを保有し、これをファクタリングで資金化する企業です。
  3. 金融機関・ファクタリング会社
    納入企業からでんさいを買い取り、満期日前に資金を提供するプレイヤーです。地方銀行・メガバンク・信託銀行のほか、専業のファクタリング会社がでんさい買取商品を提供しているケースもあります。
  4. でんさいネット(全銀電子債権ネットワーク)
    でんさいの発生・譲渡・決済情報を記録・管理するインフラです。第三者に対する公示の役割も果たし、債権譲渡の安全性を高めています。

場合によっては、

  • でんさいを会計・販売管理システムと連携させるITベンダー・クラウド会計サービス
  • 債権の信用補完を行う信用保険会社

などが間接的に関わることもあり、でんさいファクタリングは決済インフラと金融・ITが結びついた仕組みだといえます。

でんさい発生から決済までの基本フロー

通常の「でんさい決済」の流れは、おおむね次のとおりです。

  1. 取引発生
    支払企業が納入企業から商品・サービスを購入します。
  2. でんさい発生記録
    支払企業が自社の取引銀行を通じて、でんさいネットに

    • 納入企業を名宛人
    • 支払期日・金額

    を指定して電子記録債権の発生を登録します。

  3. 納入企業による内容確認
    納入企業の取引銀行等を通じて、でんさい発生の通知・内容確認が行われます。
  4. 満期日到来と決済
    満期日に、支払企業の口座から自動的に引き落とされ、でんさいネットを通じて納入企業の口座に入金されます(自動決済)。

紙手形であれば「受け取り」「銀行呈示」「決済」などの手間が必要ですが、でんさいでは一連の流れが電子記録と自動決済で完結します。

また、でんさいは一つの債権を分割して複数の相手に譲渡することもできるため、

  • 一部だけをファクタリングで資金化し、残りは自社で満期まで保有する
  • 複数の金融機関に分けて譲渡する

といった柔軟な運用も可能です。

でんさいを使ったファクタリングの資金化フロー

でんさいファクタリングを行うと、前述の「2〜4」の間に次のステップが挿入されます。

  1. 納入企業がでんさいを取得(発生記録の完了)
  2. 納入企業が金融機関・ファクタリング会社に「でんさいの買取」を依頼
  3. 金融機関が
    • 支払企業の信用状況
    • でんさいの内容(期日・金額・分割状況)
    • 過去の取引実績や業種特性

    を審査

  4. 買取が承認されれば、金融機関がでんさいを譲り受け(譲渡記録)、手数料・割引率を差し引いた金額を納入企業へ支払う
  5. 満期日に、支払企業から金融機関へ自動決済が行われる

このように、納入企業は満期日を待たずに資金を受け取り、支払企業は支払期日・支払額自体は変えずに決済できる点がポイントです。

契約によっては、将来発生するでんさいも含めて包括的に買取枠を設定し、

  • 毎月一定期日に、発生したでんさいを一括で譲渡する
  • あらかじめ上限枠(ファクタリング限度額)を決め、その範囲内で繰り返し利用する

といったスキームも存在します。これにより、都度個別審査の手間を減らし、安定的な運転資金ラインとして活用することも可能です。

2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの違い

2社間ファクタリング

納入企業(債権者)と金融機関(ファクタリング会社)の2者が契約主体となる形です。
支払企業はでんさいの発生・決済は行うものの、ファクタリング契約自体には関与しない(または形式的な承諾のみ)ケースが典型的です。

  • 手続きが比較的早い
  • 一方で、支払企業から見ると「裏で譲渡されている」状態になり、金融機関にとってはリスクが高めになる場合があるため、手数料がやや高く設定されることがある

2社間の場合でも、でんさいネット上では債権者が金融機関に変更されるため、従来の「売掛金ファクタリング」に比べると譲渡の透明性は高い点が特徴です。

3社間ファクタリング

支払企業・納入企業・金融機関の3者が関与し、支払企業も「でんさいを○○銀行に譲渡する」ことを明示的に承諾する形です。

  • 支払企業の承諾があるぶん、金融機関にとって回収リスクが小さく、条件が有利(手数料が低め)になりやすい
  • 一方で、支払企業の同意取得など手続き負担が増える

サプライチェーン全体で「でんさい+ファクタリング」を前提としたスキームを構築すれば、グループ全体として資金調達コストの低減や取引の標準化につながるため、大企業が主導して3社間スキームを整備する例も見られます。


でんさいと他の債権(手形・売掛金・電子債権)との違い

でんさいネットに記録される電子記録債権の特徴

でんさい(電子記録債権)の最大の特徴は、公的な記録機関(でんさいネット)に記録されることによる「公示性」と「安全性」です。

  • 発生・譲渡・消込の全履歴が一元的に記録され、二重譲渡のリスクが抑えられる
  • 銀行ネットワークと連動しているため、満期日の決済が自動で行われる
  • 紙の喪失・盗難リスクがない
  • システム標準が全国で統一されている
  • 電子記録債権法等の法制度に基づき運用されており、法的な位置付けが明確である

一方、他の電子債権スキーム(独自プラットフォーム型、請求書デジタル化サービス等)は、

  • 記録機関が民間事業者である
  • 決済インフラとの連携方法が各社ごとに異なる

など、設計や法的性質が異なります。

このため、でんさいは「全国共通の決済・債権管理インフラ」としての汎用性・信頼性が高く、ファクタリングの対象債権としても評価されやすい土台があります。

手形・売掛金・他の電子債権との比較

紙手形との比較

  • 紙手形:発行・郵送・保管・取立が必要で、紛失リスクがある
  • でんさい:電子的に一元管理され、紛失リスクがなく、決済は自動

また、でんさいは印紙税が不要であり、手形と比べて税コスト面でも優位になる場合があります。

通常の売掛金との比較

  • 売掛金:請求書ベースであり、債権譲渡の公示性を確保するには譲渡登記や債務者通知が必要
  • でんさい:譲渡自体がでんさいネット上で記録され、公示性が高い

そのため、譲渡登記費用や通知手続きの負担を抑えながら、第三者対抗要件を備えた債権管理がしやすいという特徴があります。

他の電子債権との比較

  • でんさい:全国銀行協会主導の標準インフラで、銀行口座と直結
  • 私設電子債権:各プラットフォームにより仕組み・法的位置付けが異なり、汎用性や信用力に差が出る

将来的にはブロックチェーン等の新技術と電子債権が結びつく可能性も議論されていますが、現状の企業実務では、でんさいネットが中心的な位置を占めています。

でんさいファクタリングと請求書ファクタリングの違い

でんさいファクタリング

  • 対象:でんさいネット上の電子記録債権
  • 決済:満期日に銀行経由で自動決済
  • 公示性:譲渡はでんさいネット上に記録
  • プレイヤー:銀行・信託銀行・専業ファクタリング会社など
  • 特徴:決済インフラと一体化しているため、債権の存在・譲渡の証拠が明確であり、法的・実務的に安定している

請求書ファクタリング

  • 対象:紙またはPDF等の請求書にもとづく売掛金
  • 決済:通常の振込・口座振替
  • 公示性:債務者への通知・承諾、または債権譲渡登記で第三者対抗要件を確保
  • プレイヤー:フィンテック系スタートアップや専業ファクタリング会社が多い
  • 特徴:オンライン完結・少額・短期・即日対応などスピード面に強みがある一方で、債権の実在性確認や二重譲渡リスクへの対応が課題となることがある

でんさいファクタリングは、「決済インフラとしての信頼性」と「譲渡記録の公示性」が高く、請求書ファクタリングと比べて法的・実務的な安定性が評価されやすいです。
その一方で、導入にはでんさいネット対応金融機関との関係構築やシステム対応が必要になるため、継続利用を前提とした一定規模以上の取引に向く傾向があります。


でんさいファクタリングを利用するメリット

資金繰り面のメリット(早期資金化・支払サイトの長期化対策)

でんさいファクタリングの最大のメリットは、「支払サイトが長い取引でも、でんさいを使って早期に現金化できる」点です。

例として、支払サイトが「検収月末締め・翌々月末払い(約60日)」の場合、

  • でんさいの満期前にファクタリングを使うことで、30日程度前に現金を受け取る
  • その資金を仕入や人件費などの支払いに充てる

という使い方が可能です。

このようなスキームは、

  • 成長期で仕入・外注費が先行する企業
  • 大企業との取引で支払サイトが長くなりがちな中小企業

にとって、資金繰りの安定化に大きく寄与します。

また、包括的な一括ファクタリング契約を結ぶことで、

  • 毎月の売掛回収サイクルを一定程度「前倒し」する
  • 仕入や給与など固定的な資金需要に合わせて継続的に資金化する

といった運転資金マネジメントがしやすくなり、金融機関借入への依存度を抑える効果も期待できます。

決済リスク低減・回収の確実性

でんさいは、でんさいネットを介して銀行口座と連動しているため、満期日に自動決済されます。

  • 手形不渡りのような「呈示忘れ」「期日勘違い」が起こりにくい
  • 決済資金が用意されていれば、確実に入金される
  • でんさい自体の記録により、債権の存在と内容が明確

といったメリットがあり、ファクタリングを行う金融機関側にとっても回収リスクが読みやすい債権です。
結果として、同じ売掛債権でも、でんさいを裏付けとした取引の方が評価されやすくなる傾向があります。

さらに、でんさいは発生・譲渡・消込の履歴がすべて記録されるため、

  • 誰がいつどの債権をどこに譲渡したか
  • すでに譲渡済みかどうか(重複譲渡の有無)

が第三者にも明らかになり、ファクタリング全般で問題となる「二重譲渡トラブル」のリスクが構造的に低減されます。
この点も、金融機関にとっては安心して買い取りやすい債権であり、結果として利用企業側の条件にも好影響を及ぼしやすくなります。

事務負担の削減(紙手形・振込処理との比較)

でんさいの導入により、次のような事務削減効果が期待できます。

  • 紙手形の発行・郵送・保管・照合作業の廃止
  • 手形紛失・盗難リスクへの備え(保険・管理)の不要化
  • 取引先ごとの振込データ作成・消込処理の簡素化

さらに、でんさいを使ったファクタリングでは、

  • でんさいの譲渡手続きも電子的に行える
  • 取引履歴がシステム上で一元管理される

ため、「紙書類のやり取り」や「印紙税」といった負担が小さくなります。
会計・販売管理システムとAPI連携させることで、売掛計上からでんさい発行・回収・ファクタリングまでの一連プロセスを自動化し、経理・財務部門の負担をさらに軽減する取り組みも進んでいます。

銀行系スキームならではの安心感・信用力

でんさいネットは全国銀行協会が運営しており、利用主体も銀行・信託銀行・信用金庫などの金融機関が中心です。

  • 取引の相手が「銀行系」であることによる安心感
  • 過度な手数料や不透明な契約条件を避けやすい
  • 会計処理や監査対応などで、社外説明がしやすい

といった信用面のメリットがあります。

ファクタリング市場全体では、一部で不透明な業者による高額手数料などが問題視されている側面もあり、でんさいファクタリングは、その中で比較的「健全なスキーム」として注目されています。

また、銀行にとっても、でんさいは自らが参加する決済インフラ上の債権であり、情報取得・リスク管理がしやすいことから、

  • 従来よりも積極的にファクタリング商品を提供しやすい
  • 既存の融資と組み合わせた総合的な資金調達提案がしやすい

といった面があり、結果的に利用企業にとって選択肢が広がりつつあります。


でんさいファクタリングのデメリットとリスク

手数料・割引率による実質資金コスト

ファクタリングである以上、売掛金(でんさい)を期日前に現金化するためのコスト(手数料・割引率)は避けられません。

たとえば、

  • でんさい満額:1,000万円
  • 満期まで60日
  • 割引料:年率6%相当(単純計算)

といった条件の場合、

1,000万円 × 6% ×(60日/365日)≒ 約10万円

程度の割引料が発生するイメージです。

このコストが利益を圧迫しないか、恒常的に利用することで「高コストな資金調達」に陥らないか、事前のシミュレーションが重要です。

特に、資金繰りが厳しい局面で安易にファクタリングを多用すると、

  • 利幅の薄い取引ほど、割引料負担で赤字化しやすい
  • 結果として、慢性的な資金繰り難・高コスト依存の悪循環に陥る

といった失敗事例も指摘されています。単発の「つなぎ」としてだけでなく、中長期の収益構造と照らし合わせたうえで利用方針を決めることが重要です。

即日資金化できない場合がある

でんさいファクタリングは銀行系が中心であることもあり、

  • 申込
  • 審査
  • 契約
  • でんさい譲渡記録

といったプロセスに一定の時間を要します。

請求書ファクタリングなどの「最短即日入金」をうたうスキームと比べると、

  • 初回取引は数日〜1週間程度
  • 2回目以降も、即日対応できない場合がある

といったケースがあります。「今日中に資金が必要」というような、極端にタイトな資金繰りには不向きな場合がある点に注意が必要です。

一方で、包括取引契約を結び審査が一通り済んでいる状態であれば、

  • 所定の締切時間までの申込みで翌営業日に資金化

といった運用が可能な場合もあるため、各金融機関の運用ルールを確認し、自社の資金繰りサイクルと合わせておくことが重要です。

支払企業・取引銀行の対応状況による制約

でんさいファクタリングを利用するには、

  • 支払企業が「でんさい」を発行していること
  • 支払企業・納入企業ともに、でんさいネット参加金融機関との取引があること

が前提条件となります。

  • 支払企業がでんさいを利用していない
  • 支払企業のメインバンクがでんさいネットに参加していない
  • 取引銀行の社内方針により、でんさいファクタリングの取扱いがない

といったケースでは、そもそもスキームを組めないことがあります。導入前に「相手先・銀行の対応状況」を確認しておくことが重要です。

また、でんさいの発行自体にも各銀行で利用料・システム利用条件が設定されているため、

  • 取引ボリュームに見合うコスト感か
  • 主要な取引先の多くがでんさいに対応しているか

といった観点から、「でんさい+ファクタリング」をどの程度の規模で活用できるのかを見極める必要があります。

二重譲渡や契約条件(リコース/ノンリコース)の注意点

でんさいは公示性が高く二重譲渡リスクは抑えられていますが、

  • でんさい以外の債権との関係
  • 包括的な譲渡契約(一括ファクタリング等)

の組み合わせによっては、法的な整理が必要なケースもあります。

たとえば、でんさいとは別に同じ取引先の売掛金全般を対象とするファクタリング契約や、他の金融機関による債権譲渡担保・譲渡登記が存在する場合など、「どの範囲の債権が誰に譲渡されているのか」を契約上明確にしておかないと、優先順位を巡る紛争リスクが生じます。

また、契約上「リコース(償還請求権あり)/ノンリコース(償還請求権なし)」の違いは極めて重要です。

  • リコース:支払企業が不払いの場合、納入企業が買取代金の返還を求められる
  • ノンリコース:支払企業が不払いでも、原則として納入企業は返還義務を負わない(そのぶん手数料は高くなる傾向)

契約書でこの点を必ず確認し、自社のリスク許容度に合った商品を選ぶ必要があります。
特に、ノンリコースを想定していたのに、実際には多数の「例外リコース条項」が盛り込まれていたというトラブル事例もあるため、専門家とともに条文レベルでチェックすることが望まれます。


【ステップ別】でんさいファクタリングの利用方法

ステップ1:でんさい利用環境の確認(銀行・システム)

まずは、自社と取引先(支払企業)が、でんさいを利用できる環境にあるか確認します。

  • 自社のメインバンクがでんさいネット参加金融機関か
  • インターネットバンキング等、でんさいに対応したサービスに加入可能か
  • 社内の会計・販売管理システムが、でんさいと連携できるか

支払企業側がでんさいを利用していなければ、そもそもでんさいファクタリングは使えないため、早めに担当銀行に相談しておくとよいでしょう。

この段階で、でんさいの利用料・導入スケジュール・テスト運用の可否なども確認し、

  • 将来的にどの取引をでんさい化していくか
  • それに合わせてどのタイミングでファクタリングを組み込むか

といった全体像をイメージしておくと、後の運用がスムーズになります。

ステップ2:取引先(支払企業)との合意・でんさい発行の準備

次に、支払企業と「支払手段としてでんさいを利用する」ことについて合意を得ます。

  • 支払条件(期日・サイト)
  • でんさいを使う範囲(特定案件だけか、全取引か)
  • 将来的にファクタリングを利用する可能性(3社間スキームの検討)

支払企業にとっても、でんさいには事務効率化や手形廃止への対応というメリットがありますので、双方の利点を整理して提案するとスムーズです。

大企業がサプライヤー向けに「でんさい支払」を標準化し、そのうえでグループ指定銀行によるでんさいファクタリングメニューを用意する、といったサプライチェーン金融の取り組みも見られます。大口取引先の方針や利用可能メニューもあわせて確認しておくとよいでしょう。

ステップ3:でんさい発生(記録)〜債権内容の確認

取引が発生したら、支払企業が自社銀行を通じて、でんさいの発生記録を行います。

  • 支払企業:銀行のEBサービス等からでんさい発生依頼
  • でんさいネット:債権データを記録
  • 納入企業:自社銀行を通じて、でんさいの発生通知・内容確認

納入企業側では、

  • 金額・期日・名義などに誤りがないか
  • ファクタリングに利用予定の債権かどうか

を確認しておきます。

同時に、社内の資金繰り計画と照らし合わせ、

  • 満期まで保有するか
  • どの時点でどの金額分をファクタリングに回すか

といった資金化戦略を立てておくと、金融機関との相談がスムーズになります。

ステップ4:金融機関・ファクタリング会社への相談・審査

でんさいをファクタリングで資金化したい場合は、自社の取引銀行やファクタリング会社に相談します。

主な確認ポイントは以下のとおりです。

  • 対象となるでんさいの金額・期日・支払企業名
  • 自社の財務内容(決算書・試算表など)
  • 既存の借入・他のファクタリング契約の有無
  • 利用したいタイミング・希望資金化額

金融機関は、支払企業の信用力・取引実績・自社の状況等を総合的に審査し、

  • 買取可否
  • 割引率(手数料)
  • リコース/ノンリコースの条件

などを提示します。

この際、単発の取引としてだけでなく、

  • 一括ファクタリングなどの包括契約が可能か
  • 将来的に枠の増額や条件見直しができるか
  • 他の資金調達手段(融資・手形貸付など)との組み合わせ提案があるか

といった点も併せて確認しておくと、中長期的な資金戦略を組み立てやすくなります。

ステップ5:でんさいの譲渡・資金受け取り

条件に合意すれば、でんさいの譲渡手続きに進みます。

  • 納入企業:でんさいネット上で、対象でんさいを金融機関へ譲渡
  • 金融機関:譲渡記録を確認し、手数料等を差し引いた金額を納入企業の口座へ入金

この時点で、納入企業は資金を受け取り、債権者は金融機関に移ります。以後、満期日までの債権管理・回収は金融機関側が担うことになります。

でんさいは部分譲渡も可能なため、

  • 必要資金分のみを譲渡し、残りを自社保有する
  • 複数期日に分かれたでんさいを組み合わせて資金化する

といった柔軟なオペレーションも、契約次第で行えます。

ステップ6:満期日決済と取引後のフォロー

満期日には、支払企業の口座から金融機関の口座へ自動決済が行われます。

  • 決済が正常に行われれば、当該取引は完了
  • 決済不能(残高不足等)の場合は、契約条件に基づき、支払企業・納入企業・金融機関の間で対応(リコース条項等)を行う

取引後には、

  • 実際の資金化スピード
  • 手数料水準と資金繰りへの影響
  • 支払企業との関係への影響(3社間の場合など)

を振り返り、継続利用や条件見直しを検討していくことが重要です。

継続的に利用する場合は、

  • 資金繰り表や経営計画に、でんさいファクタリングによる入金を織り込む
  • 必要に応じて、他の資金調達手段(融資・リース等)とのポートフォリオを見直す

といった「資金調達の最適化」を金融機関と一緒に検討していくと、より効果的に活用できます。


具体的な利用シーンと活用イメージ

中小製造業:長い支払サイトをでんさいファクタリングでカバー

大手メーカー向けに部品を供給する中小製造業では、

  • 材料仕入れは現金・短期サイト
  • 売上の入金は60〜90日後

という「資金ギャップ」に悩まされるケースが多くあります。

このような企業が、

  • 大手メーカーからの支払いを「でんさい」で受け取り
  • 期日前に銀行に売却する(でんさいファクタリング)

ことで、材料・外注費の支払いに必要な運転資金を確保しやすくなり、増産対応や新規受注のチャンスを逃さずに済む事例が見られます。

特に、支払企業側がグループ全体ででんさいを導入している場合には、

  • 取引先ごとに安定したでんさい残高が発生する
  • 銀行側も支払企業の信用力を評価しやすい

といった理由から、比較的有利な条件ででんさいファクタリングを利用できるケースがあります。

卸売業:複数の取引先のでんさいを一括ファクタリング

多くの小売・飲食店に対して商品を卸す卸売業では、取引先ごとに少額のでんさいが多数発生することがあります。

こうした場合、銀行やファクタリング会社との包括契約により、

  • 一定期間に発生した複数のでんさいを「まとめて」譲渡する
  • 月次・週次単位で一括ファクタリングを行う

といったスキームが活用されることがあります。これにより、債権管理と資金調達の両面で効率化が図れます。

さらに、会計システムや販売管理システムとでんさいネットをAPI連携させている場合には、

  • 売上計上と同時にでんさい情報を取り込み
  • 一定条件(残高や期日)を満たしたものを自動的にファクタリング対象に抽出する

といった「ほぼ自動運転」に近い運用も可能となり、少人数の経理体制でも多くの取引先を管理しやすくなります。

IT・サービス業:手形文化のない取引での新たな資金調達手段

IT・システム開発・コンサルティングなどのサービス業では、従来「請求書+振込」での決済が主流であり、手形文化が薄い分、ファクタリングの活用も限定的でした。

近年、でんさいネットやAPI連携に対応した会計・販売管理システムの普及により、

  • プロジェクト単位の請負代金をでんさいで受け取り
  • 必要に応じてファクタリングで早期資金化する

というスキームを導入する企業も出てきています。特に、外注費・人件費が先行する受託開発型ビジネスでは、こうした仕組みが資金繰り安定に役立つケースがあります。

また、IT・サービス業は無形資産が多く、銀行融資の担保評価が難しい場合も多いため、「実在する受注案件に紐づくでんさい」を使ったファクタリングは、

  • プロジェクトベースでの資金調達
  • 将来キャッシュフローに基づく資金繰り管理

の手段として、今後さらに活用が広がると考えられています。


他の資金調達手段との比較

ビジネスローン・当座貸越との違い

ビジネスローン・当座貸越 でんさいファクタリング
性質 借入(負債) 債権の売却(オフバランス処理となるケースが多い)
審査 主に自社の信用力・財務内容 支払企業(債務者)の信用力も重視
会計 貸借対照表で負債計上 原則として借入金は増えない(会計処理は状況により異なる)
コスト 借入期間全体に対して金利が発生 割引料・手数料を一括で負担

自社の信用力で借入が難しい場合や、バランスシートを膨らませたくない場合に、でんさいファクタリングは有力な選択肢となります。

また、既存の与信枠(プロパー融資・保証付融資・当座貸越など)を温存したまま、別枠で資金調達手段を確保できる点も、金融機関との長期的な関係を考えるうえでメリットとなり得ます。一方で、ファクタリング費用がローン金利より高くなることも多いため、「スピードやバランスシートの見せ方」と「資金コスト」の兼ね合いで選択する必要があります。

売掛債権(請求書)ファクタリングとの違い

請求書ファクタリングとの主な違いは次のとおりです。

  • 債権の形態(でんさい vs 通常の売掛金)
  • 公示性と決済インフラ(でんさいネット vs 債権譲渡登記・債務者通知)
  • プレイヤー(銀行系中心 vs フィンテック系中心)

請求書ファクタリングの方が「即日・少額」に強い一方で、でんさいファクタリングは「一定規模以上の取引」「継続的な取引」において安定性・透明性で優位なことが多いです。

また、請求書ファクタリングの中には、

  • 実質的には高金利ローンに近い条件
  • 二重譲渡や過大な違約金条項など、法的に問題のある契約

が見られることもあり、業者選びに注意が必要とされています。
この点、でんさいファクタリングは銀行系が主なプレイヤーであることから、

  • 条件が比較的オープンで、説明責任も求められる
  • コンプライアンス面のチェックが行われやすい

という安心感があります。

どんな会社に「でんさいファクタリング」が向いているか

でんさいファクタリングが向いているケースの例は、次のとおりです。

  • 大企業との取引比率が高く、支払サイトが長い中小企業
  • 手形からの電子化(でんさい移行)を進めているサプライチェーンに属する企業
  • 銀行系の取引を重視し、決済インフラの信頼性を重視する企業
  • 一時的ではなく、一定の回数・金額で継続的にファクタリングを利用したい企業
  • でんさい対応の会計・販売管理システムを導入し、事務効率化と資金調達をセットで進めたい企業

一方で、

  • ごく少額かつ単発の資金ニーズ
  • 即日資金化が絶対条件

といったケースでは、請求書ファクタリングやビジネスローンの方が適している場合もあります。

また、取引先・銀行がでんさいに対応していない場合や、取引ボリュームが小さくでんさい利用コストに見合わない場合には、でんさいファクタリングよりも、従来型の売掛債権ファクタリングや短期融資の方が現実的な選択肢となることもあります。


でんさいファクタリングを選ぶ際のチェックポイント

手数料・割引率・その他コストの確認

でんさいファクタリングを比較検討する際は、次の項目を確認します。

  • 割引率(年率換算・実質負担率)
  • 事務手数料・口座振替手数料などの固定費
  • システム利用料(でんさいサービス利用料)
  • 印紙税等の有無(原則としてでんさいには印紙税は不要)

複数の金融機関・事業者から見積りを取り、「年率換算した実質的な資金コスト」で比較することが重要です。

加えて、

  • 包括契約の場合の最低利用額・最低手数料
  • 途中解約時の違約金や解約手数料
  • オプションサービス(オンライン明細、API連携など)の費用

といった見落としがちなコストも、トータルで把握しておく必要があります。

審査スピード・資金化までの日数

次の点も重要な比較ポイントです。

  • 初回審査に要する期間(1週間程度か、それ以上か)
  • 2回目以降の取引でのスピード(申込から入金まで何営業日か)
  • 締切時間(何時までの申込で翌営業日資金化か)

資金繰り表と照らし合わせて、「必要なタイミングに間に合うか」を確認しておきましょう。

あわせて、

  • オンラインで申込・書類提出が完結するか
  • API連携やデータ連携による自動審査の仕組みがあるか

といったシステム面も見ておくと、将来的な運用負荷の違いが大きくなります。

ノンリコース対応かどうか

リコース/ノンリコースの違いは、リスク負担の大きな分かれ目です。

  • ノンリコース対応商品があるか
  • その場合の手数料差はどの程度か
  • 契約書上にどのような条文で規定されているか

を必ず確認し、自社が想定しているリスクの範囲と合致しているかを見極めてください。

支払企業との取引関係や信用力、自社にとっての重要度などを踏まえ、

  • 主要先・安定先はリコース型でコストを抑える
  • 倒産リスクが相対的に高い取引先分はノンリコースでリスクを移転する

といった組み合わせも検討余地があります。

契約書で必ず確認すべき条項

契約書では、少なくとも次の条項を確認しておく必要があります。

  • 譲渡対象となる債権の範囲(個別/包括)
  • リコース条項(償還請求の要件)
  • 二重譲渡禁止・他社とのファクタリング契約との関係
  • 期限の利益喪失条項(どのような場合に一括返還義務が発生するか)
  • 手数料・遅延損害金の水準
  • 契約期間と中途解約の条件
  • 管轄裁判所・準拠法

これらは、後々のトラブル回避のためにも、可能であれば専門家(弁護士・公認会計士等)と一緒に確認することをおすすめします。

あわせて、

  • でんさい以外の売掛金や将来債権まで含む「包括譲渡」になっていないか
  • 他の金融機関との融資契約(譲渡禁止特約等)と抵触しないか

といった点も重要です。場合によっては、メインバンクとの調整が必要になることもあるため、複数の金融取引の整合性を意識しておく必要があります。


今後の動向:でんさいファクタリングはどう広がるか

手形廃止・決済電子化の流れとでんさいの普及

日本全体として「紙手形からの脱却」「決済の電子化」が進んでおり、全国銀行協会もでんさいの普及を後押ししています。

  • 手形の発行枚数は長期的に減少傾向
  • それを補完する形で、でんさいの利用が拡大
  • でんさいを前提としたファクタリング商品も増加

こうした流れの中で、でんさいファクタリングは「手形割引の電子版」として、より一般的な資金調達手段の一つになっていくと予想されています。

また、サプライチェーン全体での「決済標準化」の文脈でも、

  • 大企業が支払手段をでんさいに統一
  • そのうえで、サプライヤー向けの早期支払・ファクタリングメニューを整備

といった取り組みが進めば、中小企業側の資金繰り環境の改善にもつながると期待されています。

銀行・フィンテック各社の新サービス動向

今後は、

  • 会計・販売管理システムとのAPI連携による自動でんさい発行・残高管理
  • でんさい残高に応じた自動ファクタリング枠設定
  • オンライン完結型の審査・契約プロセス

など、銀行・フィンテック各社によるサービス高度化が進むと見込まれます。
特に中小企業向けには「使い勝手」と「スピード」が重要なため、クラウド会計・請求書サービスと連携したソリューションが増えていく可能性があります。

加えて将来的には、

  • 分散台帳技術(ブロックチェーン等)を利用した債権管理
  • 異なるプラットフォーム間での電子債権・決済情報の相互運用

といった構想も議論されており、でんさいを含む電子債権の利便性がさらに向上する余地があります。もっとも、現時点ではでんさいネットが中心的インフラであり、当面はその枠組みの中でのサービス拡充が主流となる見込みです。

中小企業が今から準備しておきたいこと

将来的にでんさいファクタリングを選択肢に入れるのであれば、今のうちから次のような準備を進めておくとよいでしょう。

  • メインバンクとの関係強化(でんさい・ファクタリングの相談窓口の確保)
  • 支払企業との間で、でんさい利用の可否・意向のヒアリング
  • 会計・販売管理システムのクラウド化・API対応の検討
  • 資金繰り表の整備(どのタイミングでどれだけ資金が必要かを可視化)

こうした土台があることで、いざというときに「でんさいファクタリング」を含む複数の選択肢の中から、自社に最も合った資金調達手段をスピーディに選び取ることが可能になります。

あわせて、

  • 自社の利益率・コスト構造を踏まえ、どの水準までならファクタリングコストに耐えられるか
  • どの取引先分を優先的にでんさい化・ファクタリング対象とするか

といった「利用方針」も整理しておくと、金融機関との相談や社内意思決定がスムーズになります。

でんさいファクタリングは、「でんさい」という公的インフラ上の電子記録債権を土台として、ファクタリングで早期資金化を行う仕組みです。紙手形や通常の売掛金に比べて、公示性・決済の確実性が高く、銀行ネットワークと直結しているため、与信判断や債権管理の面で安定した運用がしやすい点が特徴といえます。
一方で、割引料・事務手数料などのコスト負担、即日資金化が難しい場面があること、支払企業や取引銀行の対応状況に左右されることなど、事前に押さえておくべき制約もあります。

自社の資金繰りサイクル、取引先の規模や支払サイト、既存の借入状況を踏まえ、ビジネスローンや請求書ファクタリングと比較しながら位置づけを整理することが大切です。そのうえで、メインバンクとの連携やでんさい対応システムの整備を進めておけば、でんさいファクタリングを中核とした、より柔軟で見通しの立てやすい資金調達戦略を描きやすくなります。

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