手形廃止の流れやインボイス制度、資金繰りの厳しさなど、中小企業を取り巻く環境はここ数年で大きく変わりました。売上は立っているのに、入金までのサイトが長く、仕入や人件費の支払いに頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。こうしたなかで注目されているのが、「でんさい」と「でんさいファクタリング」です。でんさいは、紙の手形や売掛金を電子化した仕組みで、決済のやり取りをオンライン上の記録で完結させます。そして、そのでんさいを使って支払期日前に現金化する方法が、でんさいファクタリングです。本記事では、でんさいの基本から、でんさいファクタリングの仕組み・メリット・注意点まで、資金繰り改善を検討する経営者・経理担当者の方が押さえておきたいポイントを整理して解説します。
でんさいとは?電子記録債権の基本
でんさいの概要
「でんさい」とは、正式には「電子記録債権」と呼ばれる、紙を使わないデジタル形式の債権のことです。
従来は約束手形などの紙証書で「○月○日に○○円を支払います」という約束をしていましたが、その役割をインターネット上の電子記録で代替した仕組みが「でんさい」です。
ポイントは次のとおりです。
- 債権(売掛金など)の内容が、「でんさいネット」などの電子記録機関に登録される
- 登録内容に基づき、支払期日に自動的に決済・口座振替が行われる
- 紙の手形のように「現物」を裏書して回すのではなく、「記録の書き換え」によって譲渡・割引ができる
- ベースとなる法律は「電子記録債権法」(2008年施行)で、権利関係が明確になるよう設計されている
電子記録債権法に基づき、「誰から誰へ、いつ、どんな条件で発生・譲渡されたか」といった履歴がシステム上に残るため、従来の手形や売掛金に比べて、「本当にこの債権を持っているのか」「すでに他社へ譲渡されていないか」といった確認がしやすい点も特徴です。
紙の手形廃止の流れや企業の決済DX(デジタル化)を背景に、銀行が共同で整備した「でんさいネット」などのプラットフォームを通じて普及が進んできました。
つまり、「売掛金を電子化して、発生から譲渡・決済までを記録で管理できるインフラ」がでんさいです。主な目的は「決済事務の効率化」と「手形に伴うリスクや手間の削減」にあります。
電子債権(でんさい)と紙の手形・売掛金の違い
でんさいは、紙の手形や一般的な売掛金と比べて、次のような違いがあります。
1. 管理方法の違い
- 紙の手形
紙の証書そのものが権利の根拠となるため、紛失・盗難リスクがあり、譲渡や割引には裏書や持参が必要です。 - 売掛金(請求書ベース)
会計帳簿・請求書で管理され、法的には債権ですが、第三者へ譲渡するときは通知・同意、場合によっては登記が必要です。 - でんさい
権利内容が電子記録機関に登録され、発生・譲渡・決済の履歴が電子的に一元管理されます。権利関係の確認が容易で、誰が最終的な債権者かが常に明らかになるよう制度設計されています。
2. 譲渡・資金化のしやすさ
- 紙の手形
手形割引が一般的で、銀行に持ち込んで期日前に現金化しますが、物理的なやり取りと審査が必要です。 - 売掛金
ファクタリングや債権譲渡で資金化できますが、譲渡登記や取引先通知など、法務・事務負担が発生しやすい傾向があります。 - でんさい
電子記録上の手続きでスムーズに譲渡・割引が可能で、履歴も自動記録されるため対外的な証明もしやすくなります。複数回の譲渡や分割譲渡も記録ベースで管理でき、債権流動化に適した仕組みといえます。
3. リスクと事務負担
- 紙の手形
紛失・盗難・書き換えリスク、保管コスト、印紙税負担などが発生します。 - 売掛金
回収リスクや督促事務の負担が企業側に残ります。 - でんさい
電子化により紛失リスクはほぼゼロとなり、決済手続きが自動化されることで支払遅延リスクも一定程度抑制されます。支払不能が起きた場合も、原因や履歴を含めて記録で追いやすくなっています。
このように、でんさいは紙の手形や売掛金の「電子版」でありつつ、単なるデジタル化にとどまらず、決済・譲渡のインフラとして設計されている点が特徴です。
でんさいファクタリングの仕組み
でんさいファクタリングの概要
でんさいファクタリングは、「でんさいとして記録された売掛債権」を金融機関やファクタリング会社が買い取り、納入企業が期日前に資金化する取引です。
主な登場人物は次の3者です。
- 支払企業(買い手・債務者)
- 納入企業(売り手・債権者)
- 金融機関またはファクタリング会社(ファクター)
それぞれの役割は次のとおりです。
- 支払企業:納入企業への支払い義務を、でんさいとして発生させる
- 納入企業:受け取ったでんさいを、満期前に金融機関へ譲渡(売却)して資金化する
- 金融機関・ファクタリング会社:でんさいを買い取り、満期日に支払企業から回収する
実務上は、支払企業が取引銀行とあらかじめ「でんさい発生」や「一括ファクタリング」の枠組みを取り決め、その枠内で多数の納入企業がでんさいファクタリングを利用できるスキームも多くみられます。
通常のファクタリングとの違いは、「対象となる債権がでんさい(電子記録債権)である」という点です。これにより、発生・譲渡・決済が電子記録上で完結し、債権管理が効率化されます。
取引の流れ:発生 → 譲渡(売却) → 決済
典型的な3社間でんさいファクタリングの流れは、次のとおりです。
1. 取引とでんさいの発生
- 納入企業が支払企業に商品・サービスを提供する
- 支払企業は、自社の取引銀行を通じて「でんさいの発生記録請求」を行う
- 電子記録機関(でんさいネットなど)に「支払企業 → 納入企業」宛ての債権が登録される
この段階は、「紙の手形を振り出す代わりに、でんさいを発生させる」イメージです。
2. 納入企業による譲渡(売却)申込み
- 納入企業は、自社の銀行やファクタリング会社と「でんさいの譲渡(ファクタリング)」について事前に枠契約を結んでおく
- 資金が必要になったタイミングで、保有しているでんさいの一部または全部について、譲渡(売却)を申請する
※複数の取引先分をまとめて一括で資金化するスキームもあります。
3. 金融機関側の審査と資金化
- 金融機関は、主に支払企業の信用力や取引実績を基に審査する
- 問題なければ、でんさいの譲渡記録が電子的に行われ、名義が金融機関側に移転する
- 納入企業の口座に、債権額から手数料を差し引いた金額が入金される
通常、申込から数営業日程度で入金されるケースが多く、紙手形割引や通常の債権譲渡より事務フローがシンプルです。
4. 満期の決済
- 支払期日になると、支払企業の口座から金融機関の口座へ自動的に資金が振り替えられる
- でんさいの債権は消滅し、一連の取引が完了する
すべての発生・譲渡・決済が電子記録上で行われるため、紙の受け渡しや郵送は不要です。
でんさいの仕組みにより、支払期日に残高が不足しているにもかかわらず決済が放置されるといった事態を抑える決済プロセスが組まれており、ファクタリング事業者にとってもリスクを評価しやすい環境が整っています。
2社間と3社間でんさいファクタリングの違い
通常のファクタリングと同様、でんさいファクタリングにも「2社間」と「3社間」があります。
3社間でんさいファクタリング
- 登場人物:支払企業・納入企業・金融機関(ファクター)の3者
- 支払企業もファクタリング取引を承諾したうえで、でんさいを発生させる
- 支払企業から金融機関へ直接支払いが行われるため、決済フローが明確
- ファクタリング会社から見たリスクが低く、手数料は比較的低め
支払企業と金融機関との関係も含め、サプライチェーンファイナンスの一種として設計されることが多い形態です。
2社間でんさいファクタリング
- 登場人物:納入企業と金融機関(ファクター)の2者
- 支払企業にはファクタリングの事実を通知しない(または関与させない)
- でんさいの形式上は譲渡されるものの、実務上は納入企業が支払を受け取り、そこからファクタリング会社へ返済する形を取るケースもある
- ファクタリング会社から見た回収リスクが高く、手数料は高くなりがち
でんさいは本来、3社間での利用を前提にしている側面が強いため、でんさいファクタリングでも3社間型が主流です。3社間では支払企業の協力が得られる分、納入企業は比較的低い手数料で利用できる傾向があります。
一方で、「取引先に知られたくない」といったニーズから、2社間型のスキームを用意している事業者もあります。
リコース型/ノンリコース型の違い
ファクタリング全般で重要なのが、「リコース(償還請求権)の有無」です。
リコース型(償還請求権あり)
- 支払企業が倒産する、支払不能になるなどで、でんさいが回収不能となった場合
- ファクタリング会社は、納入企業に対して支払いを請求できる
- 納入企業にとっては「売掛先の倒産リスク」が完全には切り離せていない状態
- 一般的なでんさいファクタリングでは、このリコース型が標準的です。
ノンリコース型(償還請求権なし)
- 支払企業の倒産などで回収不能となった場合でも、原則として納入企業は返還義務を負わない
- 売掛債権に関する信用リスクを、ファクタリング会社が引き受ける形となる
- その分、手数料は高く設定される傾向があり、信用保険や保証商品と組み合わせるケースもあります。
でんさいファクタリングにおいても、このリコース/ノンリコースの区別は存在します。一般的にはリコース型が多く採用されていますが、「取引先倒産リスクも手放したい」というニーズが強い場合、ノンリコース型を選ぶ価値があります。契約時には「どこまでが自社負担か」を必ず確認しておく必要があります。
「でんさい」と「でんさいファクタリング」の違い
両者の位置づけ
「でんさい」と「でんさいファクタリング」は、混同されがちですが別の概念です。
- でんさいの利用
納入企業が、支払企業からの決済手段として、でんさいを受け取ることです。
主な目的は、決済・支払の電子化と手形処理の効率化であり、電子化により支払・受取の事務コスト削減や紛失リスク低減を図ります。 - でんさいファクタリングの利用
納入企業が保有するでんさいを、金融機関やファクタリング会社へ譲渡(売却)して、支払期日前に現金化することです。
主な目的は、資金調達・キャッシュフロー改善であり、債権の「形」を活用して早期資金化という金融機能を付加するイメージです。
つまり、でんさいは「電子的な売掛金・手形の器」であり、その器を使って資金調達をする手段が「でんさいファクタリング」です。決済インフラとしての機能(でんさい)と、資金調達手段としての機能(ファクタリング)を分けて考えると整理しやすくなります。
「決済の効率化」と「資金調達」の違い
でんさい導入の主な目的は、次の2点です。
- 支払・受取の事務作業を効率化すること
- 紙の手形に比べて安全で管理しやすい決済手段を用意すること
一方、でんさいファクタリングの主目的は次の点にあります。
- 支払期日前に現金化して、資金繰りを改善すること
- 銀行融資以外の資金調達手段を増やすこと
でんさい自体は決済インフラとして機能するのみで、「いつお金が入るか」というタイミングは変わりません。ファクタリングを組み合わせることで、「いつ資金化するか」を柔軟にコントロールできるようになるという関係性です。
電子債権の利用だけでは資金繰りが改善しきれない理由
でんさいを導入しただけでは、基本的に支払期日は変わりません。
支払サイトが60日であれば、電子化しても60日後の入金であることに変わりはありません。
- でんさい導入前:紙の手形または売掛金 → 60日後入金
- でんさい導入後:でんさい → 60日後自動入金
このため、「売掛金の管理は楽になったが、資金的な余裕はあまり変わらない」というケースも多くみられます。
ここで、でんさいファクタリングを組み合わせると、次のような運用が可能になります。
- でんさい発生から数日~数週間後に、金融機関への売却によって現金化する
- 実質的な入金サイトを30日程度に短縮する
その結果、運転資金や仕入資金の回転が改善し、急な受注増や季節変動にも対応しやすくなります。でんさい単体では「決済DX」、でんさいファクタリングを組み合わせることで「資金繰りDX」まで踏み込めるイメージです。
でんさいファクタリングのメリット
納入企業(売り手)側のメリット
キャッシュフロー改善
でんさいファクタリングの最大のメリットは、キャッシュフロー改善です。
- 売掛サイトが長い取引先でも、実質的に入金サイトを短縮できる
- でんさい1枚ごとに必要な分だけ資金化できる
- 仕入先への支払い、従業員給与、税金などの支払原資を確保しやすくなる
特に中小企業では、「売上は伸びているが、入金が遅くて資金繰りが苦しい」という状況が少なくありません。このような場合に、でんさいファクタリングで入金を前倒しすることで、銀行融資に頼りすぎずに回転資金を確保できます。
支払企業が大企業で信用力が高いほど、ファクタリング手数料も抑えやすく、資金調達コストを一定水準にコントロールしやすい点もメリットです。
負債になりにくい資金調達
ファクタリングは、会計上「債権の売却」として処理されるケースが多く、通常の借入と異なり、貸借対照表上の有利子負債を増やさずに資金を調達できる場合があります。
| 項目 | 銀行融資 | ファクタリング |
|---|---|---|
| 会計処理 | 借入金として負債に計上 | 売掛金の売却として処理されるケースが多い |
| 与信枠への影響 | 金融機関の与信枠を直接消費 | 形の上では借入ではないため影響が限定的な場合も |
その結果、次のようなニーズに合致しやすくなります。
- 「借入をこれ以上増やしたくないが、資金は必要」
- 「決算書の見え方を悪化させずに資金を確保したい」
特に中小企業では、「自己資本比率」や「借入金依存度」を意識しながら資金調達手段を分散させるうえで、でんさいファクタリングは有力な選択肢になりえます。
債権管理・事務負担の軽減
でんさいを利用したファクタリングでは、次のような点で事務負担が軽減されます。
- 紙の手形の受け取り・保管・裏書・郵送といった作業が不要
- 債権の発生から譲渡・決済までの履歴が電子的に一元管理される
- でんさいネットと銀行・会計システムの連携により、入出金の照合がスムーズになる
将来的にはAPI連携やクラウド会計ソフトとの自動連携によって、「売上計上 → でんさい発生 → ファクタリング実行 → 入金・仕訳」の一連の流れが半自動化される方向にあります。結果として、管理部門の工数削減やヒューマンエラーの防止につながります。
支払企業(買い手)側のメリット
支払事務の効率化とコスト削減
支払企業側にとっても、でんさいとでんさいファクタリングの導入にはメリットがあります。
- 多数の納入企業への支払が、でんさい発行と口座振替で自動処理できる
- 紙の手形発行・郵送・印紙税などのコストを削減できる
- 支払履歴が電子データで残るため、内部管理や監査対応が容易になる
でんさいにより決済インフラが統一されることで、支払業務の内部統制を強化しやすくなり、不正防止やコンプライアンス面でのメリットも期待できます。結果として、支払事務の効率化とコスト削減につながります。
取引先支援ツールとしての活用
支払企業が積極的にでんさいとファクタリングを採用することで、「取引先支援」のツールとしても機能します。
- 自社の信用力を背景に、納入企業が低い手数料で早期資金化できる
- 「取引条件は変えられないが、資金繰り支援はしたい」というニーズに応えられる
- サプライチェーン全体の資金繰りを安定させる効果がある
大企業が主導して「でんさい+ファクタリング」スキームを整備し、系列・協力会社の資金繰りを支える例も増えています。サプライチェーンファイナンスの一環として、ESGやサステナビリティの観点から「取引先の資金繰り支援」を打ち出す企業も出てきています。
デメリット・注意点と向いている企業の特徴
手数料・コスト面での留意点
でんさいファクタリングは便利な一方で、手数料が発生します。
- 手数料率:売掛金額の数%(一般に、でんさいを使うことで通常ファクタリングよりやや低めになりやすい)
- でんさいの発生・記録・譲渡に伴う手数料:銀行や記録機関への支払い
- 契約によっては、債権譲渡登記などの法務コストが発生する場合もある
このため、次のようなケースでは注意が必要です。
- 利益率が極端に薄い取引
- 売上規模に比べて、手数料負担が重くなりすぎるケース
「一時的な資金繰り対策のつもりが、恒常的な利用で手数料依存体質になってしまう」といった失敗パターンも指摘されています。「どの取引をどの程度前倒し資金化するか」をあらかじめ設計することが重要です。
売掛先(支払企業)の協力が必要な理由
3社間でんさいファクタリングでは、支払企業の協力が前提となります。
- 支払企業が、でんさいを発生させる必要がある
- 支払企業が、取引銀行やファクタリング会社との契約に同意する必要がある
- でんさいファクタリングのスキーム自体に同意しないと、スムーズな運用ができない
そのため、次のようなケースではスキーム構築に時間を要することがあります。
- 取引先がでんさい導入に消極的な場合
- 「ファクタリング」という言葉にネガティブな印象を持つ場合
一方で、支払企業側から見ると「自社の信用力を活用して取引先を支援できる」ため、取引関係の強化というメリットもあり、近年は大企業主導でスキーム整備が進んでいる分野でもあります。
でんさい未利用の取引先の場合
でんさいファクタリングを利用するには、そもそも支払企業がでんさいを発行している必要があります。
- 取引先がでんさい未導入の場合
- 紙の手形や通常の売掛金としての取引が続く
- その債権を資金化したい場合は、「通常のファクタリング」(電子記録債権でない)を使うことになる
そのため、「すべての売掛金をでんさいファクタリングで資金化できる」とは限りません。自社と主要取引先の利用状況を確認したうえで検討することが重要です。取引額の大きい主要取引先から順に、でんさい導入を働きかける戦略を取る企業も増えています。
でんさいファクタリングに向いている企業・向いていない企業
向いている企業の特徴
- 大企業や上場企業など、信用力の高い取引先が多い
- 売掛サイトが長く、運転資金の負担が重い
- 融資枠は温存しつつ、追加の資金調達手段を確保したい
- 紙手形からの切り替えを進めている
- 会計・資金管理のデジタル化を進めており、クラウド会計やERPを活用している
効果が限定的な企業の特徴
- 取引先の多くがでんさい非対応、または小規模・不安定で信用力が低い
- 利益率が非常に薄く、数%の手数料でも負担が大きい
- 売掛サイトがもともと短く、資金繰りに大きな問題がない
- 少額・少件数の取引が中心で、導入コストや手間に見合いにくい
自社の取引構造や利益率、取引先の属性によって、向き・不向きが分かれます。「でんさいそのものの導入」と「でんさいファクタリングの活用」を段階的に検討する方法も有効です。
他の資金調達手段との比較
通常のファクタリングとの違い
電子記録債権でない売掛金を対象とする通常のファクタリングと比べると、でんさいファクタリングには次のような特徴があります。
| 項目 | 通常ファクタリング | でんさいファクタリング |
|---|---|---|
| 対象債権 | 請求書ベースの売掛金 | 電子記録債権(でんさい) |
| 債権の管理・譲渡 | 譲渡通知書・承諾書、債権譲渡登記などで煩雑になりやすい | 発生・譲渡が電子記録上で完結、権利関係も記録で確認可能 |
| 手数料水準 | 条件によっては高止まりしやすい | 決済インフラが整っている分、同条件ならやや低めになりやすい傾向 |
一方で、「取引先がでんさいを使っていない場合には利用できない」という制約があります。また、通常ファクタリングでは2社間スキームが多く、「売掛先に知られずに資金化したい」ニーズに応えやすいのに対し、でんさいファクタリングは3社間での透明なスキームとの相性が良い点も違いといえます。
ビジネスローン・銀行融資との違い
ビジネスローンや銀行融資と比べると、でんさいファクタリングは次のような位置づけになります。
| 比較項目 | 融資(ビジネスローン・銀行融資) | でんさいファクタリング |
|---|---|---|
| 資金調達の性質 | 将来返済を前提とした借入金 | 既に発生している売掛債権の売却 |
| 審査の中心 | 借り手(自社)の財務状況・信用力 | 主に売掛先(支払企業)の信用力 |
| 財務への影響 | 貸借対照表の負債を増やす | 債権の売却として処理されるケースが多く、負債になりにくい |
このため、「自社の決算内容はあまり良くないが、大手との取引があり売掛金はある」という場合に、ファクタリングが有効な選択肢になりえます。一方で、長期的・恒常的な資金需要については、融資の方が適している場合も多く、「短期の資金ギャップにはでんさいファクタリング、設備投資には融資」といった使い分けが現実的です。
サプライチェーンファイナンスとの関係
サプライチェーンファイナンス(SCF)は、支払企業の信用力を活用して、サプライヤーの資金調達を支援するスキームの総称です。
- 支払企業(大企業)の信用格付けをベースに、サプライヤー(中小企業)が有利な条件で資金調達できる
- でんさいは、そのインフラとして活用されやすく、でんさいファクタリングはSCFの一形態と位置づけられます
特に、大企業がでんさいネットを使い、取引銀行と組んでサプライヤー向けの早期資金化スキームを用意するケースでは、「サプライチェーンファイナンス=でんさいファクタリング」とほぼ同義の意味合いで使われることもあります。
海外でも電子インボイスやデジタル債権を活用したSCFが広がっており、日本におけるでんさいファクタリングは、その国内版といえる位置づけです。
でんさいファクタリングの具体的な活用シーン
中小企業の典型的な課題と活用例
中小企業に多い課題として、次のようなものがあります。
- 大企業との取引で売上は伸びているが、支払サイトが長く資金が寝てしまう
- 銀行融資は限度額いっぱいで、これ以上借入を増やしにくい
- 手形割引に頼ると、印紙税や事務コストが高い
このようなケースで、でんさいファクタリングを導入することで、次のような解決策が見込めます。
- 売掛金の一部を期日前に資金化し、仕入や人件費、設備投資に回す
- 売掛先の信用力をベースに資金調達する
- 紙の手形から解放され、管理負担・コストを軽減する
実際に、でんさいネットを活用している製造業・卸売業などで、繁忙期の資金繰り対策として金融機関とでんさいファクタリング枠を設定し、「必要なときだけ前倒し資金化する」運用を行う事例が報告されています。
季節変動・大型受注時の資金繰り改善
製造業や卸売業では、季節要因や大型受注により、一時的に大きな運転資金が必要になることがあります。
- 繁忙期の仕入が増え、在庫が積み上がる
- 大口案件の前倒し仕入・外注費が発生する
- しかし、入金は納品後○日サイトで、数か月先になる
こうした局面ででんさいファクタリングを活用すると、次のような運用が可能です。
- 受注時や出荷時点で発生したでんさいを早期資金化する
- 一時的な資金需要をカバーしつつ、繁忙期を乗り切る
- 短期借入金を増やさずに対応する
特に大企業との継続的な取引がある場合、金融機関側も支払企業の与信を前提にスキームを組みやすく、比較的安定した条件で利用しやすくなります。
失敗しがちなパターンとチェックポイント
でんさいファクタリングで失敗しがちなパターンとしては、次のようなものがあります。
- 常に全売掛金をファクタリングに回してしまい、手数料負担が膨らむ
- リコース条件を十分理解せず、取引先倒産時に大きな負担を負ってしまう
- 契約の上限額や対象取引先を把握しておらず、「必要なときに使えない」ケースが発生する
これを避けるためには、少なくとも以下の点を事前に確認しておくことが有効です。
- 手数料率と費用対効果
- リコース/ノンリコースの別と、取引先倒産時のリスク分担
- 対象となる売掛先の範囲と利用可能な上限額
- でんさい発生から資金化までのスケジュール(どのタイミングで資金化できるか)
また、通常のファクタリングと同様、債権譲渡登記や契約条項の内容によっては、他の金融機関との取引に影響が出る場合もあります。メインバンクとの関係も含めて整理しておくことが重要です。
導入から利用開始までのステップ
事前に確認しておくべき自社・取引先の条件
でんさいファクタリング導入を検討する際は、まず次の点を整理しておくとスムーズです。
- 自社は、でんさいの受取・発生に関する契約を取引銀行と結んでいるか
- 主要な売掛先(支払企業)は、でんさいを利用しているか
- どの取引先の、どの程度の売掛金を資金化したいのか
- 現状の資金繰り状況と、必要な資金量・期間
加えて、次の点も確認しておくと、提案されるプランを比較しやすくなります。
- 既存の借入枠との関係(メインバンクとの約定など)
- 希望するスキーム(2社間/3社間、リコース/ノンリコース)
これらを明確にしたうえで、取引銀行やファクタリング会社に相談すると、適切なスキーム提案を受けやすくなります。
金融機関・ファクタリング会社の選び方
金融機関・ファクタリング会社を選ぶ際の主なポイントは次のとおりです。
- でんさい(電子記録債権)に対応しているか(でんさいネットへの参加状況など)
- 手数料率やその他の費用(システム利用料、登記費用など)
- リコース/ノンリコース、2社間/3社間など、提供しているスキームの種類
- 審査スピードや、オンラインでの申込み・管理のしやすさ
- 自社・取引先との取引実績やサポート体制
- 会計システムやERPとの連携(API対応など)があるかどうか
特に中小企業の場合、メインバンクや地域金融機関が、でんさいとファクタリングをセットで提案していることも多いため、まずはメインバンクに相談するのが現実的です。一方で、フィンテック系のファクタリング会社は、オンライン完結やスピード重視のサービスを提供していることもあり、自社のニーズに応じて比較検討するとよいでしょう。
契約時に押さえておきたいチェック項目
契約段階で最低限確認しておきたいポイントは、次のとおりです。
- 手数料率・実質コスト
名目の手数料率だけでなく、「いつ資金化し、いつまで利用するのか」を含めて実質コストを試算すること - リコース/ノンリコース
支払企業が倒産・支払不能になった場合の扱い(誰が最終的な損失を負うのか) - 利用限度額・対象先
どの取引先の、いくらまで利用できるのか - 決済・入金サイクル
でんさい発生からどの時点で資金化できるのか/資金化までに何営業日必要か - 解約条件・契約期間
長期の専属契約になっていないか/手数料改定の条件など - 付随コスト
債権譲渡登記やシステム利用料など、見落としがちな費用の有無
これらを事前に確認・比較したうえで、自社の資金繰り計画に合ったスキームを選択することが重要です。
今後のでんさいファクタリング市場と中小企業への影響
でんさい普及による変化
でんさいの普及が進むことで、次のような変化が見込まれます。
- 紙の手形の利用がさらに減少し、決済のデジタル化が加速する
- 売掛金・買掛金の管理が効率化され、会計・資金管理の精度が高まる
- でんさいを前提としたファクタリングやサプライチェーンファイナンスが、標準的な選択肢となる
すでに、でんさい登録残高は年々増加しており、企業間取引のインフラとしての地位を高めつつあります。特に中小企業にとっては、「でんさい+ファクタリング」が、従来の手形割引や短期融資に代わる新しい資金調達インフラとして機能していく可能性があります。
デジタル化・フィンテックとの連携による展望
今後は、でんさいとフィンテックの連携が一層進むと考えられます。
- 銀行APIやクラウド会計ソフトとの連携により、売掛金の発生から資金化までを自動化
- AIによる与信審査や、データ分析に基づくダイナミックな手数料設定
- ブロックチェーンや分散台帳技術を応用した、より透明で改ざん耐性の高い債権記録
これにより、次のような効果が期待されています。
- 資金化までのスピード向上(審査の迅速化)
- 手数料のさらなる低下
- より多くの中小企業へ公平に資金調達機会が提供されること
でんさいファクタリングは、単なる一つの金融商品というよりも、企業間取引のデジタル化とサプライチェーン全体の資金繰り安定化を支える重要なインフラになっていくと考えられます。
まとめ:でんさいファクタリングを資金繰り戦略にどう組み込むか
でんさいは、売掛金や手形を電子化し、発生から譲渡・決済までを記録で一元管理する仕組みです。そのうえで、保有するでんさいを期日前に買い取ってもらい現金に変える取引が、でんさいファクタリングです。前者は「決済手段・インフラ」、後者は「資金調達の手段」と役割が異なる点を押さえておくと整理しやすくなります。
でんさいファクタリングを使えば、長い支払サイトの取引でも実質的な入金タイミングを早められ、融資枠を増やさずに運転資金を確保しやすくなります。一方で、手数料負担やリコース条項、売掛先の協力の有無など、確認しておくべき点も少なくありません。自社と取引先のでんさい利用状況、利益率や資金繰りの課題を整理しつつ、通常の融資や他のファクタリングと比較しながら、どの範囲をでんさいファクタリングに委ねるかを検討していく姿勢が求められます。
