電子記録債権とファクタリングの基礎整理
電子記録債権とファクタリングとは
電子記録債権(一般には「でんさい」)とファクタリングは、どちらも「売掛金」や「手形」などの債権と深く関わる仕組みですが、その性格は大きく異なります。
ファクタリング
売掛金などの債権をファクタリング会社に売却し、早期に現金化する資金調達サービスです。主なポイントは「資金調達」と「リスク移転」です。期日より前に現金化でき、売掛先が倒産した場合のリスクをファクタリング会社に移すノンリコース型が主流となっています。
日本では2000年代後半から中小企業の資金繰り改善手段として普及し、現在ではオンライン申込・AI審査により、請求書のPDFアップロードとWeb面談だけで完結するサービスも増えています。法律的には民法上の債権譲渡を利用し、必要に応じて「債権譲渡登記」で第三者対抗要件を備えます。
電子記録債権(でんさい)
約束手形や売掛金を電子的に記録し、譲渡・割引をしやすくした決済インフラです。主な目的は「支払い・決済の電子化」です。基本的には期日に支払われることが前提で、資金調達は「割引」などを通じた副次的な機能にとどまります。
2008年施行の電子記録債権法に基づき、でんさいネット(日本電子債権記録機関)が発生・譲渡・決済を一元管理します。紙手形と異なり、裏書や現物の受け渡しは不要で、記録原簿上の変更だけで権利移転が完結します。
同じ「売掛金」や「手形」を扱いながら、
- ファクタリング:債権を売却して即座に資金化するサービス
- 電子記録債権:支払いを電子化し、必要に応じて割引・譲渡もできる仕組み
という違いがあります。
なぜ今「電子記録債権とファクタリングの違い」が重要なのか
約束手形廃止・縮小とでんさいへの移行
国として、2026年度をめどに手形利用を大幅に減らす方向で議論が進んでおり、その代替として電子記録債権(でんさい)が注目されています。でんさいは、震災時における紙手形郵送の混乱や紛失リスクを教訓として整備された制度であり、手形の「紙」の弱点をカバーするインフラとして政策的にも後押しされています。
中小企業の資金繰り悪化とファクタリング需要の増加
コロナ禍や物価高の影響で運転資金が圧迫され、「売掛金をどう早く資金化するか」が中小企業にとって大きな課題となり、ファクタリングの利用が急拡大しています。売掛先(取引先)の信用をベースに資金化できるため、赤字や債務超過の企業でも利用を検討できる点が、大きな魅力となっています。
売掛金の早期資金化手段の多様化
電子記録債権を銀行で割引したり、ファクタリング会社に売却したりと、同じ「売掛金の早期資金化」であっても複数の選択肢があります。そのため、自社の状況にとってどの手段が最適かを見極める必要性が高まっています。
さらに最近では、「でんさい債権そのものをファクタリングの対象とする」ハイブリッド型サービスも登場しており、選択肢はいっそう多様になっています。
「でんさいを導入すれば資金繰りも良くなる」と短絡的に考えるとミスマッチが生じやすいため、「資金調達手段としてのファクタリング」と「決済インフラとしての電子記録債権」の違いを正しく理解しておくことが重要です。
ファクタリングの基本
ファクタリングの仕組みとお金の流れ
典型的な3社間ファクタリングの流れは次のとおりです。
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売掛金の発生
貴社(A社)が取引先(B社)に商品・サービスを提供し、売掛金が発生します。
この時点で債権の内容(請求金額・支払期日・取引条件など)が確定していることが前提であり、不良債権や紛争中の債権は通常対象外です。 -
ファクタリング会社(C社)への申し込み
A社は、B社に対する売掛金をC社に売却する契約を申し込みます。請求書や契約書などにより債権内容を確認します。
オンライン完結型も多く、決算書・請求書・入金履歴をクラウドにアップロードするだけで申し込めるサービスもあります。 -
審査・契約
主に売掛先B社の信用力を中心に審査が行われ、手数料率や買取額が決定されます。
A社自身の財務内容が悪くても、B社が上場企業や大手企業であれば高い掛目(買取率)が提示されるケースも少なくありません。 -
売掛金の譲渡・資金化
A社はC社に売掛債権を譲渡し、C社は手数料(例:5~15%)を差し引いた金額をA社に支払います。
この時点でA社は現金を受け取り、実質的に資金調達が完了します。
2社間ファクタリングの場合は、この段階で「債権譲渡登記」を行い、他の債権者より優先的な地位を確保することも一般的です。 -
期日にC社がB社から回収
期日になると、B社はC社に対して売掛金を支払います。
ノンリコース型であれば、B社が倒産して支払えなくなっても、原則としてC社がリスクを負担します。
このように、将来の売掛金を前倒しで現金に換えるのがファクタリングです。
2社間ファクタリングと3社間ファクタリング
ファクタリングには、大きく「2社間」と「3社間」があります。
2社間ファクタリング(A社とC社のみで契約)
- 売掛先(B社)には債権譲渡を通知しません。
- A社は期日にB社から入金を受け、その資金をC社へ支払います。
- 売掛先に知られない「隠密性」が高い一方で、
- 手数料が高め(10~20%など)
- 回収不能時のリスクをA社が負う契約(ウィズリコース)が多い
という特徴があります。
- 通知を行わない代わりに、「債権譲渡登記」で第三者対抗要件を備えるのが一般的で、登記費用が別途かかります。
3社間ファクタリング(A社・B社・C社の3者が関与)
- B社に対して「売掛金をC社に譲渡した」ことを通知し、承諾を得ます。
- 期日には、B社がC社に直接支払います。
- 売掛先にファクタリング利用が知られるデメリットはありますが、
- 手数料が比較的低め
- ノンリコース型でリスク移転が明確
など、より透明性の高いスキームといえます。
- 法的には、売掛先への確定日付付き通知や承諾によって、第三者に対しても譲渡を主張できる状態を整えます。
資金繰りの状況や売掛先との関係を踏まえ、2社間と3社間のどちらを選ぶかを検討することが重要です。
ノンリコース/ウィズリコースとリスクの違い
ファクタリングの契約では「ノンリコース」と「ウィズリコース」が重要なポイントとなります。
- ノンリコース(償還請求権なし)
売掛先B社が倒産して支払えなくなっても、基本的にA社はC社に資金を返還する必要がありません。
売掛先の倒産リスクがC社に移転するため、真の意味での「リスク移転型ファクタリング」といえます。その分、手数料率はやや高くなる傾向があります。 - ウィズリコース(償還請求権あり)
B社からの回収ができない場合、C社はA社に対して支払いを請求できます。
実質的には融資に近く、A社の信用リスクも残ります。表面的な手数料は低く見えても、リスクはA社側に残る点に注意が必要です。
契約書を精査しないと判別しにくいため、「ノンリコースかどうか」は必ず確認すべき重要事項です。 また、ファクタリングは貸金業法上の「利息」ではなく「手数料」として扱われるため、ガイドラインに沿った適正な条件かどうかも確認する必要があります。
ファクタリングのメリット・デメリット
メリット
- 担保・保証人が不要で、売掛金さえあれば利用しやすい
- 審査の中心が「売掛先の信用力」であり、赤字決算でも利用できる場合がある
- 即日~数日で資金化できるなど、資金繰り改善効果が大きい
- ノンリコース型なら、売掛先の倒産リスクを外部に移転できる
- クレジットラインにカウントされないため、銀行融資枠とは別枠で資金を調達しやすい
デメリット
- 手数料が高め(5~20%程度が目安)で、年率換算するとコスト負担が大きい
- 2社間ファクタリングでは、回収不能リスクがA社側に残るケースが多い
- 債権譲渡禁止特約がある取引先の売掛金は利用に制約がある
(ただし、2020年の民法改正により、中小企業保護の観点から一部の譲渡禁止特約は無効とされるケースがあります) - 実質的に高利貸しに該当する不適切な業者・スキームも存在し、業者選びを誤るとトラブルになりやすい
- 売掛先にファクタリング利用が伝わると、与信管理上の懸念を持たれることがある(特に3社間ファクタリング)
電子記録債権(でんさい)の基本
電子記録債権とは(手形との違い)
電子記録債権は、従来の約束手形や売掛金を、電子的な記録として管理・譲渡できるようにした仕組みです。その中核インフラが、日本電子債権記録機関(通称:でんさいネット)です。
手形との主な違いは次のとおりです。
- 紙ではなく電子記録
紛失・盗難・偽造のリスクが大幅に低減します。 - 裏書不要で譲渡が簡単
手形の裏書の代わりに、でんさいネット上の記録変更で譲渡が完結します。 - 分割譲渡が容易
1件のでんさいを複数に分割し、複数の取引先へ譲渡することも可能です。 - 支払い期日前の資金化は「割引」で対応
従来の手形割引と同様に、銀行に割引を依頼して期日前に資金化することができます。 - 発生・譲渡・消滅のルールが法律で明確
電子記録債権法により、記録原簿上の「記録」が債権の発生・移転の根拠となるため、権利関係が明確で、二重譲渡などのトラブルが起きにくい構造です。
電子記録債権は「手形の電子版」といえる存在であり、主な目的は支払い・決済の効率化です。
でんさいネットを使った具体的な流れ
電子記録債権(でんさい)の代表的な利用の流れは次のとおりです。
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発行登録(債権の発生)
支払企業(債務者)が取引銀行を通じて、でんさいネットに「○月○日に○○円を支払う」という電子記録債権を登録します。受取企業(債権者)の口座情報なども同時に登録されます。 -
受取企業による確認
受取企業は、自社の取引銀行を通じて、電子記録債権が発生したことを確認します。 -
譲渡・分割譲渡
受取企業は、仕入先などへの支払いに充てるために、このでんさいをそのまま譲渡したり、分割して複数の先へ譲渡したりできます。 -
割引による期日前資金化
受取企業が「期日前に現金が必要」と判断した場合、銀行に「でんさいの割引」を依頼します。
銀行は所定の割引料(利息・手数料)を差し引いて現金を貸し出し、期日には発行企業からの支払いで回収します。 -
期日決済
支払期日になると、でんさいネットの記録に基づき、支払企業から最終的な債権者へ資金が移動し、電子記録債権は消滅します。
このように、でんさいネットを介して発生・譲渡・割引・決済が一元管理される点が大きな特徴です。紙手形のような郵送・保管・現物照合が不要であり、企業の経理・資金管理システムともAPI連携しやすい構造になっています。
電子記録債権のメリット・デメリット
メリット
- 手形に比べて紛失・盗難・偽造リスクが小さく、安全性が高い
- 裏書書類の作成が不要で、譲渡・分割譲渡が簡便
- 電子データであるため、事務コスト・郵送コストを削減できる
- 割引手数料は一般にファクタリングより低く(1~3%程度)、コスト面で有利
- 記録原簿により権利関係が明確で、二重譲渡のリスクが小さい
- 将来的な手形廃止に備えた標準的な決済手段として、取引先からの評価を得やすい
デメリット
- でんさいネットに登録された債権しか扱えず、柔軟性に限界がある
- 基本は期日支払いであり、ファクタリングほどの即時性はない
- 導入には銀行経由の手続きが必要で、取引銀行や信用力によって使い勝手が左右される
- 導入・運用には、一定のシステム対応や社内ルール整備が必要
- 中小企業の中には、口座維持費や利用料の負担を理由に導入をためらうケースもある
電子記録債権による資金調達(割引・譲渡)のポイント
電子記録債権を利用した資金調達には、主に次の方法があります。
- 銀行によるでんさい割引
従来の手形割引と同様、銀行に割引を依頼し、期日前に現金化します。
銀行は発行企業の信用力を重視して審査するため、発行企業が大企業であれば割引を受けやすい傾向があります。
割引は「融資」の一種であり、企業の与信枠(借入残高)としてカウントされる点も押さえておく必要があります。 - 他社への譲渡
自社が受け取ったでんさいを仕入先などへ譲渡して支払いに充てることで、実質的に資金負担を先送りできます。
紙手形と異なり、分割譲渡がしやすく、1件のでんさいを複数の仕入先への支払いに使い分けることも可能です。
いずれにしても、電子記録債権そのものは「決済の器」であり、資金調達効果は割引・譲渡をどのように活用するかによって変わると理解しておくことが大切です。なお、でんさい債権を銀行ではなくファクタリング会社に譲渡し、よりスピーディーに現金化するスキームも一部で実用化されています。
ファクタリングと電子記録債権の違い比較
資金調達のスピードとタイミング
- ファクタリング
申込から入金まで、早い場合は即日~数日で完結します。
売掛金が発生したタイミングで、すぐに資金化しやすい手段です。特にオンライン型2社間ファクタリングでは、午前中の申込で当日入金となるケースもあります。 - 電子記録債権(割引利用)
銀行審査が必要で、手続きに一定の時間がかかります。
割引をしない限り期日に支払いが行われるのが基本であり、即金性は高くありません。
割引取引も銀行の営業日・営業時間内に限定されるため、「今日中にどうしても資金が必要」というニーズには対応しづらい場合があります。
「とにかく急いで現金が必要なのか」「ある程度余裕を持って調達できるのか」によって、適切な手段は異なります。
リスクの所在(倒産リスクを誰が負うか)
- ファクタリング
ノンリコース型であれば、売掛先の倒産リスクは原則としてファクタリング会社が負担します。
ウィズリコース契約の場合は、回収不能時のリスクが利用企業にも残るため注意が必要です。
法的には債権譲渡にあたり、適切な対抗要件(通知・承諾・登記)が備わっていれば、他の債権者より優先的に回収できる点も特徴です。 - 電子記録債権
電子記録債権自体は決済の器であり、発行企業が倒産した場合のリスクは、基本的に債権者側(受取企業や割引を行った銀行)が負います。
銀行割引の場合、銀行は発行企業からの支払い不能リスクを一定程度負いますが、その分、与信審査は厳格です。
記録原簿に基づいて権利者が明確に特定されるため、「誰に支払うべきか」を巡る紛争は起きにくい一方で、債務者の信用そのものが揺らいだ場合のリスクヘッジ機能は限定的です。
倒産リスクをどの主体がどこまで負うかが、両者の大きな違いのひとつです。
手数料・コスト構造
- ファクタリング
手数料率は概ね5~15%程度(場合によっては20%近いケースもあり)、コストは高めです。
その代わりに「即時性」と「リスク移転」というメリットを得る構造です。
2社間で登記を行う場合は、別途登記費用や司法書士報酬がかかることもあり、総コストはさらに増加します。 - 電子記録債権(割引)
割引手数料は一般に1~3%程度とされ、ファクタリングより低水準です。
ただし、でんさい利用に伴う口座維持手数料やシステム対応コストなどが別途かかる場合があります。
また、銀行与信枠を消費するため、他の融資余力とのバランスも考慮する必要があります。
短期的な資金繰りの改善を優先するのか、中長期的なコスト最適化を重視するのかによって、選択は変わってきます。
法律・仕組み上の違い(債権譲渡と電子記録)
- ファクタリング:民法に基づく債権譲渡
売掛金という債権を、民法上の譲渡契約によりファクタリング会社へ移転します。
第三者対抗要件として、売掛先への通知や承諾、あるいは債権譲渡登記などが用いられます。
2020年の民法改正により、譲渡禁止特約の効力が制限され、中小企業が売掛金を資金調達に活用しやすくなった側面もあります。 - 電子記録債権:電子記録債権法に基づく電子記録
電子記録原簿(でんさいネット)への登録そのものが、発生・譲渡・消滅の根拠となります。
原則として、別途通知を行わなくても、記録変更により第三者に対しても対抗可能な法律構造です。
二重譲渡や譲渡禁止特約の扱いも法律で詳細に定められており、「記録」を確認すれば権利関係が把握できる仕組みです。
法律構造が異なるため、トラブル発生時の対応方法や手続も大きく異なります。
利用シーン・目的の違い
- ファクタリングの主な目的
運転資金や成長投資のための「資金調達」が中心です。
建設業・製造業・人材派遣業など、売掛サイクルが長く支払いサイトが厳しい業種で多く利用されています。
コロナ禍や急な受注増など、一時的な資金ショートを乗り切るため、スポットで利用するケースも一般的です。 - 電子記録債権の主な目的
企業間取引における支払い・決済の電子化と効率化が中心です。
手形に代わる決済手段として、受発注フローや経理処理の標準化を図る文脈で利用されることが多く、「資金繰り改善」は副次的効果として位置づけられます。
まとめ:自社に合った使い分けの視点
電子記録債権とファクタリングは、どちらも売掛金と結びついた仕組みでありながら、「何のために使うのか」「どこにコストとリスクが生じるのか」がまったく異なります。
- ファクタリング:売掛金を前倒しで現金化し、場合によっては倒産リスクも外部に移すための資金調達の手段
- 電子記録債権:手形に代わる決済インフラとして、支払いや譲渡を電子的に扱いやすくするための決済・事務効率化の制度(資金調達効果は割引や譲渡の活用度合いに依存)
資金繰りを短期間で立て直したいのか、決済フロー全体を効率化したいのか、自社の課題を整理したうえで、スピード・コスト・リスクのバランスを見極める視点が欠かせません。単一の手段に依存せず、銀行融資やでんさい割引、ファクタリングを組み合わせながら、自社の事業モデルに合った資金繰り設計を行うことが求められます。
