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EY監査法人が解説するファクタリング会計処理の実務

目次

EY監査法人が解説するファクタリング会計処理の実務

ファクタリングとは:基本の仕組みと会計上のポイント

ファクタリングとは、企業が保有する売掛債権(請求書などの未収入金)をファクタリング会社に譲渡し、期日前に資金化する取引をいいます。資金繰り改善の有力な手段である一方、会計処理を誤ると監査で重大な指摘につながりやすい取引でもあります。

債権譲渡といっても、実態が「債権の売却」なのか「売掛金を担保とした資金調達」なのかによって、貸借対照表・損益計算書・キャッシュフロー計算書の表示は大きく変わります。EYを含む大手監査法人は、国内基準だけでなくIFRS第9号「金融商品」のデレコグニション(金融資産の消滅)の考え方も踏まえ、形式ではなく実質を重視した判断を行うよう指導しています。

ファクタリングの主なスキーム

2社間ファクタリングと3社間ファクタリング

2社間ファクタリング

2社間ファクタリングは、売掛債権の譲渡人(企業)とファクタリング会社の2者で完結するスキームです。売掛先(債務者)には譲渡通知を行わないか、非常に限定的に行うケースが多く、回収は引き続き譲渡人が行います。

資金調達のスピード・柔軟性が高い一方で、回収不能リスクを譲渡人が負い続ける設計になりやすく、会計上「実質は借入」と判断されることが少なくありません。特に中小企業が利用する2社間スキームについて、EYの実務では「名目ノンリコース・実質ウィズリコース」になっていないかを重点的に検証する傾向があります。

3社間ファクタリング

3社間ファクタリングは、譲渡人・ファクタリング会社・売掛先の3者が関与し、売掛先に債権譲渡の通知を行い、売掛先からファクタリング会社へ直接支払う形態です。回収リスクや回収業務がファクタリング会社へ移る設計が取りやすく、「売却」処理として資産除去を認めやすいスキームです。

実務では、売掛先の与信管理・回収代行と一体となったサービスとして提供されることも多く、この場合は「回収サービスの対価」「信用リスク引受の対価」「資金提供の対価(利息)」が混在します。EYは契約条件を分解し、各要素の性格を整理することを推奨しています。

「資金調達」と「債権売却」の二面性

ファクタリングは、経営の感覚としては「早期資金調達」、法的・会計的には「債権売却(譲渡)」という二面性を持ちます。

実務上重要なのは、会計上「売却」なのか、「売掛金を担保にした借入」なのかを峻別することです。同じ「ファクタリング」という名称でも、契約実態によっては完全に「借入取引」と判断されます。

特に、資金繰りが厳しい局面で「期末だけ一時的に売掛金を飛ばす」ような取引は監査上のリスクが高く、EYは以下の点も含めて評価します。

  • 継続的な資金調達スキームなのか
  • 一過性で財務指標を良く見せるためのものではないか

EYの視点で押さえるべき論点

EYをはじめとする大手監査法人は、IFRS第9号「金融商品」や日本基準の資産除去に関する実務指針を踏まえ、主に次の点を重視します。

リスクと報酬の移転

信用リスク・回収リスク・延滞利息の享受など、債権に係る主要なリスク・報酬がどの程度譲受人に移っているかを評価します。特に次の点を注視し、「最悪シナリオで誰がどこまで損失を負担するか」を具体的にシミュレーションして評価します。

  • 回収不能時にどの水準まで譲渡人が補填するか(一定割合か、実質全額か)
  • 売掛先の倒産等、極端な信用事象が起きた場合の扱い

コントロール(支配)の移転

債権の管理・回収方法・再譲渡などの権限が誰にあるか、譲渡人が実質的に支配し続けていないかを検証します。たとえば次の点が確認されます。

  • 回収業務は誰が行うか
  • 督促方法や法的手続を決定できるのは誰か
  • 再ファクタリングや証券化など、債権の再処分の権限を誰が持つか

実質重視の原則

名目が「譲渡」でも、実質が「回収不能時は全額償還義務」「高率の保証義務」であれば、借入と判断します。形式面よりも、「最終損失を誰が負担するのか」「利益を誰が享受するのか」を総合的に評価します。

EYは、契約書上の条項だけでなく、過去の運用実績(償還請求が実際にどの程度行われているか、実務上の運用慣行)も確認対象とし、「紙の上だけのノンリコース」になっていないかを見極めようとします。


なぜ「ファクタリング 会計処理 EY」が重要なのか

IFRS・日本基準における位置づけ

IFRSでは、金融資産の消滅(derecognition)の判断がIFRS第9号に詳細に定められています。日本基準でも、金融商品会計基準や企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」等を通じて、債権譲渡の資産除去の判断が求められます。

共通する考え方は、次の3段階で評価するアプローチです。

  • 契約上の権利の消滅か
  • 実質的なリスク・報酬の移転か
  • コントロールの喪失か

EYは、これらの基準に沿って各ファクタリング契約を個別に分析することを推奨しています。

また、IFRS適用企業では、ファクタリングはIFRS第7号(金融商品:開示)に基づく開示論点とも密接に関係します。リスク移転が一部にとどまる場合の継続関与アプローチや、オフバランス化した債権に対する信用リスクエクスポージャーの開示など、実務的な検討事項が多く、EYはグローバルの知見を踏まえた指針を社内で整備しています。

監査で問題になりやすい典型パターン

監査で問題になりやすいのは、次のようなケースです。

  • 売掛金をオフバランス化して財務指標を良く見せる目的で、実質は借入にもかかわらず「売却」として処理しているケース
  • 回収不能時に譲渡人が一定比率以上を必ず補填するなど、重大なリスクが残っているにもかかわらず資産除去しているケース
  • ファクタリング手数料全額を「支払手数料」として一括費用処理し、本来利息相当部分を金融費用として期間配分すべき契約を誤処理しているケース
  • キャッシュフロー計算書で、「営業活動」か「財務活動」かの区分を誤るケース

これらはEYの監査でも繰り返し指摘される論点です。特に、フィンテック系のオンラインファクタリングや債権プールを用いたスキームなど、新しい形態の取引では、従来の融資・リース等と同じ感覚で仕訳してしまい、結果としてIFRS・日本基準の要求から外れてしまうケースが増えています。

関係者別の関心事

経営者の関心事

経営者にとっては、次のような点が主な関心事となります。

  • 資金繰り改善効果
  • 財務指標(自己資本比率、D/Eレシオ)の見え方
  • 開示・信用力への影響

特に上場企業では、ファクタリング依存度が高まると、投資家が「恒常的な資金繰り難」と受け止めるリスクがあり、経営説明責任の観点からも慎重な運用が求められます。

経理・財務担当の関心事

経理・財務担当にとっては、次の点が重要です。

  • 売却/借入の適切な判定
  • 仕訳・科目・税務処理の整合
  • 注記・有価証券報告書での説明内容

実務では、契約条項の読み込み、社内方針の整備、監査人との事前すり合わせなど、相当程度の専門知識が必要となります。EYは研修やアドバイザリーを通じて企業側担当者のスキル向上を支援する場合もあります。

監査人(EY等)の関心事

監査人にとっては、次の観点が重視されます。

  • 基準に照らした資産除去の妥当性
  • リスク・報酬移転の評価プロセス
  • 不正・粉飾の可能性(オフバランス操作)

ファクタリングは、オフバランスを通じた粉飾のツールとして悪用された過去事例もあるため、監査上「重点監査事項(KAM)」に位置づけられる場合もあります。EYは経営者・監査役会とのコミュニケーションを重視し、認識のずれが決算期末の手戻りを生まないよう対応します。


会計処理の基本フロー:売却か借入かの判断

資産除去に該当するかの基本フロー

資産除去(売却処理)が認められるかどうかは、おおむね次の3段階で判断します。

1. 契約上の権利が消滅したか

売掛先がファクタリング会社に直接支払う義務を負い、譲渡人が法的権利を失う場合は、資産除去の前提が整います。

一方で、形式上は債権譲渡契約を締結していても、「譲渡担保」としての性格が強く、回収されたキャッシュが自動的に債権の消滅ではなく借入金返済に充当される仕組みであれば、権利の消滅とはみなされにくくなります。

2. リスク・報酬が実質的に移転しているか

回収不能損失・延滞利息・回収増分の利益などの大部分がファクタリング会社に帰属しているかを評価します。

IFRS第9号の枠組みでは、「リスク・報酬のほとんどを移転」「ほとんどを保持」「一部のみ移転」といったパターンに分けて判断する考え方があり、日本基準も同趣旨を取り入れています。EYは、単なる定性的評価にとどまらず、シナリオ分析や期待損失額の比較など、定量的評価も組み合わせることを推奨しています。

3. コントロールが移転しているか

債権の処分・再譲渡・回収方法の決定権を誰が持つかを確認します。譲渡人が大部分を支配していれば資産除去は認められません。

特に、譲渡人に「買取戻し義務」や「任意の買戻しオプション」が付されている場合、その条件(価格・期間など)によっては、コントロールが譲渡人に残存していると評価されることがあります。

これら3つの観点を総合して、「売却(資産除去)」か「借入(資金調達)」かを判定します。

リスクと報酬の具体的チェックポイント

リスク・報酬の移転を評価する際は、次のような点を確認します。

  • 回収不能が発生した場合、最終的に誰がどの程度負担するか
  • 延滞利息や遅延損害金を誰が受け取るか
  • 回収コスト(法的手続等)を誰が負担するか
  • 買取限度額を超える部分のリスクは誰が負うか
  • 将来、譲渡債権が増加した場合の追加利得は誰のものか

最終損失と最終利益の帰属先のバランスがポイントです。EYの実務では、これらの要素をリストアップし、「譲渡人・譲受人のどちらにどの程度偏っているか」をマトリクスで整理しながら結論を導くケースもあります。

売却処理と借入処理での表示・仕訳の違い(概要)

売却として処理する場合

  • 売掛金を消去し、受取額と帳簿価額との差額を「債権譲渡損」「ファクタリング費用」等として損益計上します。
  • 貸借対照表上は債権が減少し、負債増加は発生しません。
  • キャッシュフロー計算書では、通常「営業活動によるキャッシュフロー」として表示します。

借入として処理する場合

  • 売掛金はそのまま残し、「ファクタリング借入金」等の負債を認識します。
  • 支払った手数料・ディスカウントのうち利息相当部分は金融費用として期間配分します。
  • 資金調達は「財務活動によるキャッシュフロー」として表示します。

この判定は、財務内容の見え方を大きく左右します。


売却として処理する場合の実務ポイント

売掛金の消滅とファクタリング費用の認識

売却と判定される場合、譲渡した売掛金の帳簿価額を消去し、受け取った現金との差額を「ファクタリング費用」や「債権売却損」として処理します。

  • 受取額が帳簿価額より少ない場合:譲渡損(費用)
  • 受取額が帳簿価額より多い場合:譲渡益(収益、通常は稀)

IFRS適用企業では、譲渡後も一部リスクに「継続関与」している場合、完全な消滅ではなく、残存リスク部分について金融負債や保証債務を認識する必要があります。EYは、このような複雑なケースでの測定方法(期待値ベース、オプション評価など)についても助言を求められることがあります。

譲渡損益・手数料の扱い

契約条件により、次のような対価が混在することがあります。

  • サービス対価(債権管理・回収代行)
  • 信用リスク引受の対価
  • 資金調達コスト

実務上はまとめて「支払手数料」「ファクタリング費用」とすることもありますが、金額が重要性を持つ場合は、金融費用とサービス費用を区分することが望まれます。特にIFRS適用企業では、利息性の対価は金融費用に含めることが求められるため、EYは「どこまでが利息性か」を合理的な基準で分解しているかを確認します。

開示上の留意事項

売却処理を行う場合、開示として次の点に留意します。

  • 債権譲渡の概要(形態、主な条件、譲渡した債権の額)
  • なお残存するリスク・保証義務がある場合は、その内容
  • オフバランス化された債権に関する偶発債務の有無

特に上場企業では、有価証券報告書の「金融商品」の注記や「重要な後発事象」に関連して説明が求められる場合があります。IFRS適用企業では、IFRS第7号に基づき、譲渡取引に関するリスクエクスポージャーや、譲渡したが引き続き関与している金融資産の残高などの開示が求められることがあり、EYは国際的な開示水準との整合性にも留意しています。


借入(資金調達)として処理する場合の実務ポイント

売掛債権を残したまま負債計上するケース

実質が借入と判断される場合、以下のように処理します。

  • 売掛金(又は受取手形)は貸借対照表上に存続させます。
  • ファクタリング会社から受け取った金額を負債(「短期借入金」「ファクタリング借入金」など)として計上します。
  • 売掛先からの入金時に、その入金で借入金を返済する仕訳を行います。

この場合、売掛金に関する信用リスクは引き続き企業が負っており、減損会計(信用損失引当金など)の対象にもなります。EYは、ファクタリング利用により売掛金の滞留構造が変化している場合、減損の見積りプロセスにも影響が出ていないかを併せて検証します。

実効金利法や利息相当額の考え方

ディスカウント方式(債権額面から一定率を差し引いて資金を受け取る方式)の場合、差引額の全部または一部は利息相当額として扱われます。

IFRSでは実効金利法が原則であり、日本基準でも、長期かつ金額が重要な場合には実効金利法を検討すべきとされています。短期で金額も重要性が低い場合には、単純に「支払利息」「支払手数料」として期間費用処理する実務も見られますが、EYとしては契約実態に即した合理的な配分がなされているかを確認します。

たとえば、継続的な枠契約で1年以上にわたり利用するケースでは、実質的には「回転信用枠付きの借入」と類似してくるため、割引料を全期間にわたり一定の実効金利で配分しているかがチェックされます。

ノンリコース/ウィズリコースの違いと開示

ノンリコース(償還請求なし)

名目上は回収不能時の償還義務がない形態ですが、「形式ノンリコース・実質ウィズリコース」のような複雑な契約もあります。リスク移転が十分でない場合は、依然として借入と評価され得ます。

たとえば、「一定の売掛先に関する信用事由が発生した場合のみ償還請求を行う」といった条件付き償還条項がある場合、その条件が発動しやすいかどうかも含めて評価が必要です。

ウィズリコース(償還請求あり)

回収不能額の一定割合を譲渡人が負担する契約です。回収リスクを実質的に負っているため、通常は借入と判定されやすく、負債計上とともに償却原価法による利息認識が論点となります。

開示においては、ノンリコース・ウィズリコースの区別と、残存リスクの説明が求められます。特に、多額のウィズリコース取引を行っている場合には、財務制限条項(コベナンツ)への影響や、将来のキャッシュフロー変動リスクとして投資家から注目されやすく、EYも注記の充実を促す傾向があります。


EY流チェックリスト:契約書から読み解くべき論点

契約条項で必ず確認したい項目

1. 回収不能時の負担者

  • 全額譲渡人負担か
  • 一定割合まで譲渡人、超過分はファクタリング会社か
  • どのような条件で償還請求がなされるか

EYは、この条項を起点に「実質的な信用リスクの帰属」を評価します。

2. 買取限度額・対象債権の範囲

  • 一括買取か、継続的な枠契約か
  • 売掛先単位か、全顧客債権か

枠契約の場合、実質的にはシンジケートローンやABL(アセットベースドレンディング)に近い性格を持つこともあり、単純な売却とは異なる評価が必要になります。

3. 償還義務・買取戻し条項

  • 会計不正・返品・値引きが発生した場合の扱い
  • 契約解除時の残高精算方法

商品返品や値引きに起因する調整をどこまで譲渡人が負うかは、売上認識基準との整合性も含めて検討するポイントです。

4. 手数料・ディスカウントの算定方法

  • 定率か固定額か
  • 期間に応じて変動するか(利息的性格が強いか)

利息性が強い場合は金融費用としての扱いがより明確になり、期間配分の必要性が高まります。

5. 回収業務・債権管理の担当者

  • 誰が請求書を発行し、誰が回収するか
  • 回収遅延時の交渉権限はどちらにあるか

実務の運用まで含めて確認することが、コントロール移転の判断には重要です。

実務で使える「売却/借入」簡易判定フロー(イメージ)

以下のような簡易フローで「まず当たりをつける」ことが有効です。

  • 1. 法的に債権の名義はファクタリング会社に移転しているか
    • NO:原則借入
    • YES:次へ
  • 2. 回収不能リスクの大部分を誰が負担しているか
    • 譲渡人:借入の可能性が高い
    • ファクタリング会社:次へ
  • 3. 債権の管理・再譲渡などコントロールは誰が持っているか
    • 譲渡人:借入の可能性
    • ファクタリング会社:売却(資産除去)の可能性が高い

このようなフローで「まず当たりをつけ」、重要案件は監査人・顧問税理士と協議する体制が望まれます。EYの現場でも、この簡易フローを起点に、重要性が高い案件についてはより詳細な質問票やチェックリストに落とし込む運用が一般的です。


2社間・3社間ファクタリングで変わる実務対応

2社間ファクタリングの特徴と会計処理の留意点

2社間ファクタリングは、売掛先に通知しないことから、売掛先との関係悪化を避けられる一方で、回収は引き続き譲渡人が行うため、回収リスクが残存しやすい構造です。

このため、実務では「実質借入」と判断されるケースが多く、オフバランス目的で売却処理していると監査で是正が求められます。

典型的な問題としては、次のようなものがあります。

  • 高率な手数料と完全償還義務がセットになっているのに、「債権売却益・損」として処理している
  • 売掛金を消去しつつ、回収不能発生時の損失を別途計上するなど、二重計上的な処理をしている
  • 取締役会など社内の承認プロセスがなく、内部統制上の不備と指摘される

特に中小企業やスタートアップでは、銀行融資が受けにくいことから2社間ファクタリングに依存しがちであり、「資金調達ツール」としての便利さと、「会計・ガバナンス上のリスク」とのバランスをどうとるかが実務課題となります。

3社間ファクタリングの特徴と会計上の扱い

3社間ファクタリングでは、債権譲渡が売掛先に通知され、売掛先の支払先はファクタリング会社に変更されます。回収業務と回収リスクが実質的にファクタリング会社へ移ることが多く、売却処理を適用しやすい形態です。

ただし、3社間であっても、次のような場合には借入と判定される可能性があります。

  • 実質的なリスクが譲渡人に残る設計の場合
  • 売掛先が支払を拒否した場合の損失を譲渡人がほぼ全額負担する契約

形式的に3社間であるだけでは足りず、契約内容全体の実質判断が重要です。EYは、たとえば「売掛先の支払遅延が一定日数を超えた場合に、譲渡人が買戻す義務がある」といった条項がないかを丹念に確認し、リスクがどこまで移っているかを精査します。


EYがよく指摘する「よくある誤り」とその回避策

1. オフバランス目的の形式的スキーム

典型的には、次のようなケースです。

  • 決算期直前に大量の売掛金をファクタリングで処分し、自己資本比率を一時的に改善させる
  • 実態はウィズリコースであり、回収不能時は全額償還義務が存在する

EYは、こうした取引について契約実態の精査と資産除去の可否の再検討を求めます。回避策としては、次のような点が挙げられます。

  • 期首からの契約継続性の確保
  • 償還義務の水準の見直し
  • 内部規程での利用目的・上限額の明確化

また、監査役・監査委員会に対しても、ファクタリング利用状況の定期的な報告を行い、ガバナンスラインでのチェックを強化することが望まれます。

2. ファクタリング手数料の誤った費用計上

次のような誤りが見られます。

  • 利息相当部分とサービス対価部分を区別せず、一括して「支払手数料」と処理している
  • 長期にわたる取引で、実質的に利息の前払いとなっているケースでも一括費用計上している

重要性が高い場合、利息相当部分は金融費用として期間配分する検討が必要です。EYのレビューでは、金額の重要性だけでなく、ファクタリングが資金調達戦略の中で占める比率や、投資家にとっての情報価値も考慮しつつ、どこまでの分解が必要かを議論することが多くあります。

3. キャッシュフロー計算書での誤分類

次のような誤りも頻出です。

  • 売却処理としたにもかかわらず、資金流入を「財務活動によるキャッシュフロー」に分類している
  • 実質借入なのに「営業活動」に含めてしまう

原則としては、次のように分類します。

  • 売却処理:売掛金の売却によるキャッシュインは通常「営業活動」
  • 借入処理:ファクタリングによる資金調達は「財務活動」

IFRS適用企業では、IAS第7号「キャッシュ・フロー計算書」に基づく分類も踏まえ、類似取引との一貫性を確保しているかが監査のチェックポイントとなります。

4. 監査での指摘事例と是正のステップ

会計処理の誤りが発見された場合、通常は次のステップが求められます。

  1. 取引契約の見直し
  2. 過年度誤謬の有無と影響額の評価
  3. 必要に応じて過年度財務諸表の修正・注記

EYは、経営者との早期コミュニケーションを通じて、修正方法と開示内容を協議することを重視しています。場合によっては、ファクタリング会社側との契約修正(償還条件の明確化やリスク分担の見直し)を提案し、今後同様の誤りが生じないようスキーム自体の改善を促すこともあります。


実務で役立つ仕訳例とケーススタディ

基本的な仕訳パターン

1. 売却処理の仕訳例

額面1,000万円の売掛金を、手数料5%(50万円)で3社間ファクタリングにより売却し、現金950万円を受け取ったケースです。

タイミング 借方 貸方
売却時 現金預金 950万円
ファクタリング費用 50万円
売掛金 1,000万円

債権管理・回収業務もファクタリング会社へ移転する場合には、「販売費及び一般管理費」の中で「支払手数料」等として表示するのが一般的ですが、規模が大きければ注記でファクタリングの利用額・条件などを補足することが望まれます。

2. 借入処理の仕訳例

同じ条件で、実質借入と判断された2社間ファクタリングの場合です。

タイミング 借方 貸方
資金受領時 現金預金 950万円
前払利息 50万円(重要性に応じて)
ファクタリング借入金 1,000万円
決算時 支払利息 X万円 前払利息 X万円
売掛先からの入金時 現金預金 1,000万円 売掛金 1,000万円
借入金返済時 ファクタリング借入金 1,000万円 現金預金 1,000万円

借入処理とした場合は、「売掛金の回収」と「ファクタリング借入金の返済」が別々のトランザクションとして認識される点が、売却処理との大きな違いです。

3. 手数料・ディスカウントの扱い

短期・少額であれば、受領時に一括して「支払手数料」計上することも実務上行われますが、契約期間が長い、金額が大きい場合には、期間配分が望ましいと考えられます。

特に、オンラインファクタリングなどで「月額固定フィー+ディスカウント料」といった複合的な手数料体系を採用している場合には、それぞれの性格(サービス対価・利息・オプションプレミアム等)を整理した上で科目設定することが、EYの観点からも望ましいとされます。

ケーススタディ:このファクタリングは売却か借入か

1. 中小企業の2社間ファクタリング事例

  • 資金繰り悪化した中小企業が、主要取引先の売掛金2,000万円を2社間ファクタリングで利用
  • 手数料10%、回収不能時は100%償還義務

名目は「債権譲渡」でも、回収リスクの全てを企業が負っており、実質的に担保付借入と判断される可能性が高いケースです。会計処理は売掛金を残したまま、借入金を計上するのが妥当と考えられます。EYの監査でも、このようなケースでは「なぜ売却と判断しなかったか」を含め、判断根拠を文書化しておくことが求められます。

2. フィンテック系オンラインファクタリング事例

  • AI審査により、複数の売掛先の小口債権をプールして譲渡
  • 売掛先にも通知され、回収はファクタリング会社が一括して実施
  • 回収不能時の補填は、プール全体で一定のリスクシェアをする仕組みで、企業の追加負担は限定的

リスク・報酬がかなりの程度ファクタリング会社へ移転しており、売却として資産除去が認められる可能性が高いケースです。ただし、プール残高に対する補償条項があれば、その内容次第で評価が変わります。EYは、AI審査やスコアリングモデルによる価格付けの妥当性も含めて、信用リスクの移転が経済合理性をもって説明できるかをチェックします。

3. グループ会社間取引を伴う事例

  • 親会社が子会社の売掛債権をまとめてファクタリング会社へ譲渡
  • 子会社の財務指標改善を目的としているが、親会社が回収不能時の全額補償を約定

子会社単体では売却の要件を満たしているように見えても、グループ全体としてリスクが残存していれば、連結ベースでは資産除去が認められない可能性があります。EYは連結ベースでのリスク・報酬移転を重視して評価します。

連結財務諸表上は、親会社の保証契約を踏まえたうえで、金融負債や保証債務の認識が必要か、開示が十分か、といった点が論点となります。


税務・開示・内部統制まで含めたトータル対応

税務上の留意点(概要)

ファクタリングに伴う譲渡損(ファクタリング費用)は、原則として損金算入可能な費用となります。一方で、手数料部分に対しては消費税の課税関係が発生する場合があり、金融取引として非課税となる部分との区別が論点となります。また、債権譲渡契約書等に係る印紙税も忘れがちな論点です。

さらに、ノンリコース型で大きな損失が発生した場合の税務上の取り扱い(貸倒損失か、譲渡損か)や、グループ内保証を伴うケースにおける寄附金認定リスクなど、個別事情に応じた検討が必要になります。個別案件ごとに税務顧問と連携し、会計処理と税務処理の整合を図ることが重要です。

有価証券報告書・注記での開示ポイント

有価証券報告書などの開示では、次のような点が重要です。

  • オフバランス化された債権の額、主な条件、残存リスク
  • ノンリコース・ウィズリコースの別
  • 継続的なファクタリング取引がある場合、その概要と期間

開示の目的は、投資家・債権者に対し、ファクタリング取引が財政状態・キャッシュフローに与える影響を透明に示すことです。EYは、ファクタリングが企業のビジネスモデル上「通常の営業取引の一部」になっているのか、「一時的な資金繰り対策」なのかが分かるような説明を行うことを推奨しており、場合によってはMD&A(経営者による説明)での言及も検討されます。

ファクタリング利用に関する社内ルール・承認プロセス

ファクタリング利用に関しては、内部統制の観点から次のような社内ルールの整備が重要です。

  • 取引先の信用力・社内の与信限度との関係を踏まえた利用判断
  • 利用上限額や利用目的の明確化(短期資金繰り対策か、構造的な赤字補填か)
  • 契約締結前に、財務・経理・法務・経営企画が合同でレビューするプロセス

経営層が取引実態を把握し、会計処理・開示への影響を理解した上で承認しているかが問われます。EYは、J-SOXや内部統制監査の観点からも、次のような点を確認します。

  • ファクタリング利用の承認権限表
  • 契約書レビューのチェックリスト
  • 会計処理判断の記録(会計メモ)

これらが整備されているかを確認し、「個人判断に依存していないか」「期末直前に例外的な取引が集中していないか」といった観点で評価を行います。


今後のトレンドとEYが見ているリスク・チャンス

AI・オンライン審査型ファクタリングの拡大と会計処理

AI審査やオンライン完結型サービスにより、即日資金化・小口債権の活用が進んでいます。一方で、次のような複雑なスキームも増えています。

  • 債権プール、トランシェ分け
  • 投資家への証券化販売

これらは、従来の単純な「売掛債権の売却」という枠を超え、ストラクチャードファイナンスや証券化取引に近い性質を帯びることも多く、IFRS第9号やIFRS第10号(連結)、IFRS第12号(開示)など複数基準の横断的な検討が求められます。EYは、こうした新型スキームについて、IFRS・日本基準の枠組みでの資産除去・金融商品区分の判断を重点的な監査テーマと位置付けています。

ESG・コンプライアンスの観点からの注目点

過度なファクタリング依存は、サプライチェーン上の中小企業に負担を転嫁する場合があり、ESG評価の観点からも注目されています。不透明なオフバランス処理は、ガバナンス上の問題として投資家から強い批判を受けるリスクがあります。

透明な会計処理と開示は、単に監査対応にとどまらず、ESG・サステナビリティ情報開示の一環としても重要性が高まっています。近年は、統合報告書やサステナビリティレポートにおいて、サプライチェーン金融(サプライチェーンファイナンス)全般の方針・利用状況を説明する企業も増えており、EYもこうした開示のベストプラクティスの蓄積を進めています。

基準改正・監査トレンドへの備え方

IFRSでは金融商品会計の適用範囲見直しや、開示強化の議論が継続しています。日本基準もIFRSとのコンバージェンスを意識した改正が進んでおり、ファクタリング取引に関する指針も将来的に変更があり得ます。

企業側としては、次のような対応が望まれます。

  • 新しい取引形態を導入する際は、事前に監査人と協議する
  • 重要な契約は会計方針メモを作成し、判断プロセスを文書化する

EYは、単に事後的に会計処理をチェックするだけでなく、事前相談を通じて企業のイノベーションを阻害しない形でのスキーム設計を支援するスタンスをとっています。これにより、「会計上の地雷」を避けながら新たな金融手法を取り入れることを支援し、ファクタリングを含む各種金融スキームの適切な活用を後押ししています。


まとめとして押さえたい3つの実務チェックポイント

1. 契約実態を踏まえたリスク・報酬移転の評価

名目ではなく、次の点を総合的に評価し、「売却」か「借入」かを判断することが最重要です。

  • 回収不能時の最終損失の負担者
  • 回収遅延・延滞利息の享受者
  • 回収・管理・再譲渡のコントロールの所在

IFRS・日本基準・EYのガイドラインはいずれも、「経済実態に即した会計処理」を求めています。形式的なスキーム構築によるオフバランスは、長期的には企業価値を毀損し得る点を意識しておく必要があります。

2. 売却/借入の会計処理を誤らないための社内ルール

会計処理の誤りを防ぐため、次のような社内ルールの整備が有効です。

  • ファクタリング利用時には必ず経理・財務が契約書をレビューする
  • 一定金額以上の取引は法務・経営層の承認を要する
  • 仕訳パターン・勘定科目・キャッシュフロー区分を事前にマニュアル化する

こうした社内ルールを整備することで、決算期の混乱と監査指摘を防ぐことができます。加えて、定期的にEY等の監査人からのフィードバックを社内規程に反映し、実務担当者向けの研修を行うことで、会計処理の質とスピードの両方を高めることができます。

3. EYのガイドライン・監査人との早期コミュニケーションの重要性

安定した会計・監査対応のためには、次のようなコミュニケーションが重要です。

  • 新たなファクタリングスキームを導入する段階で、監査人と事前協議を行う
  • 会計処理の方針案を共有し、重要な判断については監査調書にも残せる形で合意しておく

これにより、「ファクタリング 会計処理 EY」という観点から、透明性の高い財務報告と安定した監査対応が可能となります。ファクタリングは有用な資金調達手段ですが、その会計処理には高度な専門判断が求められます。社内の体制整備と専門家との連携を重視して運用していくことが重要です。

ファクタリングの会計処理は、「売却」か「借入」かの判定ひとつで、貸借対照表からキャッシュフロー計算書まで影響が連鎖します。本稿で見てきたように、名称やスキームの形式ではなく、誰がリスクと報酬を負い、誰がコントロールを持ち続けているのかという経済実態の把握が出発点です。とりわけ2社間ファクタリングやウィズリコース取引では、オフバランス狙いの処理が粉飾と評価されるリスクも意識する必要があります。

実務担当者は、①契約条項の精読とチェックリスト化、②仕訳・勘定科目・CF区分を含む社内マニュアル整備、③重要案件についての監査人・税務顧問との事前協議という三層の対応を日常業務に組み込むことが求められます。EYなど監査法人の考え方を踏まえつつ、判断プロセスを文書化し、内部統制や開示とも一体で管理していくことで、ファクタリングを安易な「決算対策」にしない健全な運用につながります。

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