ファクタリング契約書のチェックポイント【まず全体像をつかむ】
ファクタリング契約書とは
ファクタリング契約書は、利用企業が保有する売掛債権をファクタリング会社に譲渡(売却)する条件を定めた書面です。買い取り額、手数料、償還義務、通知方法など、債権の移転条件とリスク配分を明確にする役割があります。口頭でも契約自体は成立しますが、実務上は書面(電子契約を含む)での確認が必須です。
民法上は「債権譲渡契約」として位置付けられ、契約自由の原則が働くため、条文一つで負うリスクが大きく変わります。近年はe-文書法への対応により電子契約が主流となり、債権譲渡登記や売掛先の承諾書など、複数の関連書類をパッケージで取り交わすケースも増えています。
「融資」との違いと誤解されやすいポイント
ファクタリングは債権の売買であり負債ではありません。そのため貸借対照表上の扱いは融資と異なりますが、手数料は高めになりやすい傾向があります。銀行融資と異なり、担保設定や金利規制が直接適用されない点や、償還請求権(ウィズリコース)が付くと実質的に返済責任を負う可能性がある点は、誤解されやすいため注意が必要です。
会計上は「売掛金の売却」として処理され、売却損(ファクタリング手数料)が費用計上される一方、借入金のような負債は増えません。この「オフバランス化」というメリットを強調する業者もいますが、償還請求権付きの場合は、実務上は銀行から実質債務と見なされることもあります。したがって、契約書でリスク負担の範囲を細かく読み込む必要があります。
2社間ファクタリングと3社間ファクタリングの契約書の違い
2社間ファクタリングは、利用企業とファクタリング会社との間で締結する秘密契約であり、売掛先に通知しないのが一般的です。償還請求権付きとなるケースが多く、手数料も高めに設定されます。
3社間ファクタリングは、売掛先の承諾を得て、売掛先からファクタリング会社へ直接支払う仕組みであり、ノンリコースに近い形となることから手数料は低めになる傾向があります。これに伴い、契約条項や添付書類の内容も大きく変わります。
2社間ファクタリングの主な書類
2社間では、次のような書類がセットになることが一般的です。
- 債権譲渡契約書
- 集金業務委託契約書(売掛先からの回収を利用企業が行う旨)
- 債権譲渡登記に関する合意書
3社間ファクタリングで追加される書類・条項
3社間では、上記に加えて次のような内容が盛り込まれます。
- 売掛先宛ての債権譲渡通知書・承諾書
- 売掛先がファクタリング会社へ直接支払う旨の合意
3社間は売掛先の信用力に依拠するため、「売掛先変更・取引解消時の扱い」などに関する条項も重要となります。
署名前に必ず確認したい基本条件
手数料表示と実質負担額の確認
契約締結前には、手数料の「見せ方」に注意する必要があります。
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表面上の料率と実質負担額
基本料率に加え、事務手数料や遅延損害金などが上乗せされる場合があります。総額としていくら差し引かれるのかを確認してください。 -
年利換算での割高感の把握
資金化期間が短いほど実質年率は高くなります。年利換算で他の調達手段と比較しておくことが重要です。 -
2社間か3社間かによる相場感
一般的に、3社間は5〜10%前後、2社間は10〜20%台とされることが多く、これを大きく超える水準の場合は注意が必要です。 -
名目を変えた手数料の有無
「審査料」「コンサル料」「事務管理費」などの名目で手数料を重ねていないか、契約書別紙や見積書も含め、すべて合算した実効コストを把握することが重要です。
買取金額・入金タイミングの確認
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資金化される割合(買取率)
買取率(売掛債権額の何%を先払いするか)は業者によって異なり、80〜95%などの水準が一般的です。自社の資金繰りに必要な水準か確認してください。 -
入金予定日と振込条件
契約締結後の入金日、振込先口座、事務手続き上のボトルネックなどを事前に確認しておきましょう。 -
残額精算のルール
売掛先からの入金後に差額を精算する方式の場合、そのタイミングと計算方法(手数料控除の基準日、日割計算の有無など)を契約条文で確認してください。 -
キャンセル時の取り扱い
契約成立後に利用を取りやめる場合の費用負担やキャンセル料も、資金繰りに影響し得るため、事前に把握しておく必要があります。
契約期間と継続利用に関する条件
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スポット契約か包括契約か
取引ごとのスポット契約なのか、継続利用を前提とした包括契約なのかで条件が変わることがあります。包括契約では、別の手数料体系や最低利用期間が設定される場合があります。 -
自動更新条項の有無
自動更新となる条件、解約条件、解約通知期限が明文化されているかを確認してください。 -
専属(専用)契約になっていないか
一定期間、特定業者に対してのみファクタリングを行う義務を負う条項がないかを確認し、他社への乗り換えや銀行融資への影響も考慮する必要があります。 -
包括契約の場合の対象売掛先の範囲
特定の売掛先に限定されているのか、不特定の売掛先の債権まで包括しているのかによって、将来の取引の自由度が変わります。
トラブル回避のために重要な条項のチェック
償還請求権(ウィズリコース)の有無
売掛先が支払わない場合に、利用企業が補填する義務があるかどうかを必ず確認してください。文言上は「ノンリコース」とされていても、一定の場合には償還を請求できる例外規定が設けられているケースがあります。
特に次のような場面において、「表明保証違反」「危険負担」などの名目で利用企業が責任を負う条項がないか、条文レベルで確認することが重要です。
- 売掛先の倒産・支払不能時
- 売掛債権に瑕疵があった場合(架空取引、二重請求、契約違反など)
- 売掛先との契約変更・相殺等が行われた場合
これらの範囲が広すぎると、実質的に全てのリスクを利用企業が負うことになりかねません。
債権譲渡通知・承諾に関する条項
売掛先へ通知するかどうか、通知方法(内容証明郵便、書面、メールなど)とそのタイミングが明確に定められているかを確認してください。通知手続きが曖昧な場合、支払先の混乱や二重請求の問題が生じるおそれがあります。
3社間ファクタリングの場合は、特に以下の点が重要です。
- 売掛先の「承諾書」を誰が取得し、誰が保管するか
- 売掛先が支払先を誤った場合の責任分担
- 売掛先が譲渡に同意しない場合の取り扱い(契約解除、対象債権からの除外など)
2社間で売掛先に通知しない場合でも、将来的に売掛先へ通知する「権利」をファクタリング会社に与える条項が含まれていることがあります。その条件や発動要件もあわせて確認しておきましょう。
債権譲渡登記・二重譲渡に関する条項
債権譲渡登記の有無、費用負担者、第三者への譲渡禁止の有無を確認してください。二重譲渡防止策が不十分な業者はリスクが高くなります。
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債権譲渡登記を行う場合
登記名義人、登記のタイミング、法務局への申請を誰が行うかを確認し、登録免許税や司法書士報酬などの費用負担の明細も把握しておきましょう。 -
他社への譲渡や担保設定がないことの表明条項
「既に他社への譲渡や担保設定がないこと」を利用企業に表明させる条項が入っている場合、その違反時には即時解約や一括償還となるケースが多く見られます。銀行のABL(動産・債権担保融資)や別業者のファクタリングの有無を社内で整理したうえで署名してください。 -
再譲渡禁止条項と回収金の取扱い
利用企業側が同一債権を再度譲渡しない義務(再譲渡禁止条項)や、債権回収金を「受託者」として保管する旨が記載されていることも多く、その違反が重大な債務不履行として扱われていないかを確認する必要があります。
違約金・損害賠償条項の金額水準の確認
違約事由が具体的に定義されているか、違約金が売掛金額に対して何%に相当するかを把握しておくことが重要です。「相当額」など曖昧な表現のみの場合は、解釈の余地が大きくなります。
次の点をチェックしてください。
- どのような行為・事象が「違約事由」に該当するか
- 違約金・損害賠償額が上限付きで明記されているか
- 遅延損害金の利率や計算方法が妥当か
- 一方的にファクタリング会社に有利な設定になっていないか
まとめ:契約書全体を俯瞰してリスクとコストを見極める
ファクタリング契約書は、資金調達のスピードだけでなく、リスクとコストの配分を細部で決める書類です。手数料率や買取率といった「わかりやすい条件」だけに目を奪われると、償還請求権の範囲や通知方法、違約金の水準など、後から覆しにくい負担を見逃しがちです。
ポイントを整理すると、まずは「2社間か3社間か」「スポットか包括か」といった契約の枠組みを押さえたうえで、次の点を確認していくことが重要です。
- 手数料の総額・実質負担(名目を変えた各種費用まで含める)
- 買取率、入金タイミング、残額精算やキャンセル時の扱い
- 契約期間、自動更新・専属条項など継続利用に関する条件
- 償還請求権の有無と表明保証違反・危険負担条項の内容
- 債権譲渡通知・承諾の方法と責任
これらを契約書全体の中で整理し、自社にとって受け入れ可能なリスク水準かどうかを事前に見極めることが、ファクタリングを安全に活用するうえでの鍵となります。

