在庫が膨らむほど、手元資金は目減りしていきます。銀行融資は審査や担保で時間がかかり、「売れる見込みはあるのに、今の資金が足りない」という場面も少なくありません。在庫ファクタリングは、倉庫に眠る在庫を現金へと変え、資金繰りの選択肢を広げる手法として注目されています。本記事では、その仕組みと活用事例を解説します。
在庫を資金化するファクタリングの仕組みと事例
在庫ファクタリングとは
在庫ファクタリングとは、企業が保有する商品在庫をファクタリング会社に売却または担保提供し、即時に現金化する手法です。従来の売掛金ファクタリングが「すでに発生した売掛債権」を対象とするのに対し、在庫ファクタリングは「これから売れる見込みの在庫」を資金化する点が特徴です。
対象となりやすいのは、在庫が多く資金を圧迫しやすい中小製造業、小売業・EC事業者、中古車販売業など高額在庫を抱える事業者です。
日本では支払サイトが60〜90日と長くなりがちな一方で、仕入れや人件費は先に支払う必要があります。このため「将来の売上見込みはあるが、現時点の現金が不足する」という状況が生じやすくなっています。このギャップを埋めるために、在庫という比較的流動性の高い資産を活用して資金を先行確保する仕組みとして、在庫ファクタリングが活用されています。
会計上は、在庫や関連債権を売却することで現金に振り替わるだけであり、銀行融資のように新たな負債を計上しない(オフバランス処理になりやすい)点も特徴です。
なぜ在庫ファクタリングが注目されているのか
在庫は仕入れ段階で出費が発生するため、過剰在庫は資金繰りを悪化させます。コロナ禍以降は需要変動やサプライチェーンの乱れにより在庫リスクが増大し、現金不足による機会損失が問題となってきました。一方で、銀行融資やABL(資産担保融資)は審査や担保手続きに時間と手間を要し、即時の資金需要に対応しきれないケースがあります。このような背景から、在庫を早期に現金化できる仕組みとして在庫ファクタリングが注目されています。
さらに、デジタル化によって在庫データや販売実績をリアルタイムに把握しやすくなり、「在庫がどの程度の価格で、どのくらいの期間で売れるか」を定量的に評価しやすくなりました。その結果、ファクタリング会社側も在庫を対象とした審査やモニタリングを行いやすくなり、サービス提供が現実的になっています。
中古車販売向けの「Carbase Finance」のように、特定業種の在庫構造や販売サイクルに特化したサービスも登場しており、業種ごとのニーズに合わせて在庫ファクタリングが細分化・高度化していることも、近年注目度が高まっている要因です。
在庫ファクタリングの仕組み
取引の流れと関係者
在庫ファクタリングの取引には、主に以下の関係者が関わります。
- 利用企業(在庫を保有する企業)
- ファクタリング会社
- 必要に応じて在庫の買い手や倉庫業者
取引の一般的な流れは次のとおりです。
- 利用企業が在庫リストや販売予測、販売実績、主要取引先などの情報をファクタリング会社に提出します。
- ファクタリング会社が現物確認や在庫評価を行い、市場価格、回転率、品質などを基に評価額を算出します。
- 評価額に基づき買取比率(例:評価額の70〜90%)が決まり、契約を締結します。
- 契約成立後、買取額から手数料(数%〜10%前後)を差し引いた金額が企業に入金されます。
在庫の種類によっては、ファクタリング会社の担当者や外部鑑定士が倉庫や店舗に赴き、現物確認や数量照合を行うこともあります。こうしたプロセスを経て、「どの在庫を、いくらで、どの程度の期間対象とするか」が決定されます。
契約形態とスキーム
在庫ファクタリングの契約形態は主に次の2つに分かれます。
- 売却型:在庫の所有権をファクタリング会社に売却するタイプ
- 担保型:在庫を質入れし、担保として提供するタイプ
また、取引先への通知の有無によって、以下のスキームがあります。
- 2者間ファクタリング:利用企業とファクタリング会社のみで完結し、取引先には通知しない方式
- 3者間ファクタリング:利用企業・ファクタリング会社・取引先の三者で契約し、取引先にも通知する方式
在庫はそのまま企業に残し、通常どおり販売を継続できるスキームもあります。この場合は、名目的に在庫を債権化し、「所有権や売却代金の受取権」をファクタリング会社に移転する形をとることがあります。
契約パターンごとのリスク
契約パターンごとに、次のような特徴とリスクがあります。
| 契約パターン | 特徴 | 主なリスク・注意点 |
|---|---|---|
| 売却型 | 返済義務が原則なく、オフバランス処理しやすい | 売れ残り時の損失負担や手数料負担に注意が必要 |
| 2者間ファクタリング | 取引先に通知せず柔軟に利用できる | 回収リスクが高まりやすい |
| 3者間ファクタリング | 取引先にも通知し、透明性と回収の安定性が高い | 取引先との合意や手続きが必要 |
また、在庫ファクタリングは「在庫そのもの」を対象とするため、売掛金ファクタリングやABLと比べると、資金化できる金額の上限が在庫評価額に強く制約される点を理解しておく必要があります。
在庫ファクタリングのメリット・デメリット
メリット
在庫ファクタリングを活用する主なメリットは次のとおりです。
- 在庫を即時資金化することで、キャッシュフローが改善する
- 在庫の滞留を抑えることで、倉庫費用や劣化リスクを低減できる
- 負債として計上しないため、銀行融資枠を温存しやすい
- 資金不足による販売機会の逸失を抑えられる
銀行融資と異なり、決算内容よりも在庫や将来の売上見込みが重視されるため、赤字決算や自己資本比率が低い企業でも利用しやすい側面があります。「この在庫がどれだけ売れるか」「どのくらいのスピードで資金回収できるか」が評価の主な基準となるため、成長途上の企業や急な受注増に対応したい企業にとって、有効な資金調達手段となりえます。
デメリット・注意点
一方で、次のようなデメリットや注意点もあります。
- 手数料や実質金利が発生する
- 在庫評価次第で調達可能額に上限がある
- 頻繁に利用すると恒常的なコストとなり、利益を圧迫するおそれがある
- 悪質な業者との契約リスクがあるため、契約条件や手数料構造を事前に丁寧に確認する必要がある
また、在庫の売却予測が外れた場合には、想定していたキャッシュフローが得られず、売れ残り在庫の処分や値下げ対応に迫られるリスクがあります。契約内容によっては、一定条件のもとで追加の費用負担や再交渉が必要になるケースもあるため、「一時しのぎ」ではなく、中長期の在庫戦略・販売戦略の中に位置づけて利用することが重要です。
在庫ファクタリングの具体的な利用シーン
事例1:製造業(材料・仕掛品の滞留)
材料や仕掛品の在庫が滞留していた製造業の企業が、在庫を資金化することで新素材への投資資金を確保した事例があります。在庫ファクタリングによりキャッシュフローが改善し、生産ラインの稼働率を維持できたことで、事業の継続性と成長投資の両立が可能になりました。
事例2:小売・EC(季節商品・トレンド商品の入れ替え)
小売業やEC事業では、季節商品やトレンド商品の売れ残り在庫を早期に資金化し、新たな人気商品の仕入れに回すことで在庫回転率を改善し、次シーズンの売上機会を確保するケースがあります。在庫ファクタリングを活用することで、トレンドの変化に合わせた機動的な仕入れがしやすくなります。
事例3:中古車販売など高額在庫
中古車販売業など、高額な在庫を抱える業種では、車両を手放さず評価額に基づいて資金化するスキームが活用されています。在庫を維持しつつ資金を確保できるため、販売機会を逃しにくい点がメリットです。車両向けファクタリングなど、業種特化型サービスを利用することで、在庫評価や運用の負担を軽減できる場合もあります。
売掛金ファクタリングとの組み合わせ活用
人材派遣業や物流業など、主に売掛金を資産とする業種でも、売掛金ファクタリングと在庫ファクタリングを組み合わせ、運転資金全体を最適化するケースがあります。
特に、在庫回転率が高く一定の販売見込みが立つ業種では、在庫ファクタリングを活用して繁忙期前に仕入れを前倒しし、売上の最大化を図るといった「攻めの資金調達」としての利用が増えています。
一方で、過度に依存した結果、毎月のように手数料が発生して利益を圧迫し、かえって資金繰りが苦しくなる失敗事例もあります。このような事態を避けるためには、「どのタイミングで、どの程度利用するか」という社内ルールの策定や、複数社からの見積り取得・比較検討が欠かせません。
まとめ
在庫ファクタリングは、一時的な資金繰りの改善や、攻めの仕入れ資金の確保に有効な手段となりえます。一方で、手数料や在庫評価条件、契約形態によるリスクを十分に理解しておく必要があります。
在庫ファクタリングは、一時的な資金繰りの改善だけでなく、繁忙期前の仕入れ前倒しや、新商品の投入など攻めの打ち手にも活かしやすい手法です。ただし、在庫評価額に資金調達額が左右されることや、手数料・契約条件によってコスト負担やリスクの度合いが大きく変わる点には注意が欠かせません。
導入を検討する際は、
- 自社の在庫回転率や販売予測と整合した利用額・利用頻度の設定
- 売却型か担保型か、2者間か3者間かといったスキームの比較
- 複数社からの条件比較と、契約条項(買取対象・手数料・追加請求条件など)の精査
といったポイントを押さえたうえで、「あくまで在庫戦略とキャッシュフロー戦略の一部」として位置づけることが欠かせません。銀行融資や売掛金ファクタリングと組み合わせ、自社のビジネスモデルに合った最適な資金調達ポートフォリオを構築していくことが重要です。

